6⃣-03-④は選定に関する実体的な情報を、【確認事項】、【評価事項】、そして、一部については【確認事項の該当性の確認方法】という3つの項目につき解説しています。
この3つの項目を正確に言いますと、申請しようとする地域の民生部門における「CO2排出の実質ゼロ」を実現することの具体的な意味(確認事項)、その実質ゼロをどのような点に着目して判断するか(評価事項)、および、実質ゼロをどうやって実現するか(確認事項の該当性の確認方法)です。
3つ目の【確認事項の該当性の確認方法】は技術的にかなり高いレベルで説明されています。1-1から7まで、8つの事項に分けて説明されています。以下、その順に取り上げて説明します。
引き続き、文字の黒色は比山、青色はガイドブックの文章であることを示しています。ただし、太字は青色を含め比山が重視しているなどを表わしています。
6⃣-03-④-1-1 2030年度までに、脱炭素先行地域内の民生部門(家庭部門及び業務その他部門)の電力消費に伴うに伴うCO2排出の実質ゼロを実現すること (ガイドブック11~16頁)
この6⃣-03-④-1-1「脱炭素先行地域内の・・・CO2排出の実質ゼロを実現する」というのは、脱炭素先行地域づくりの最終目標のようなものです。少し丁寧に見ておきます。【確認事項】は次のように述べています(11頁)。
脱炭素先行地域内の民生部門の電力需要量の実績値を集計又は推計し、脱炭素先行地域内に供給される再エネ等の電力供給量及び民生部門による省エネによる削減量の合計がそれと同等以上となる計画であること
1 上記【確認事項】は数字の問題ですが、以下のように分かりやすいイメージ図として示されています。
ここで注目されるのは、太陽光発電システムなど再エネ等による電力供給に加えて、省エネ対策によって削減が見込まれる電力量も、脱炭素先行地域内のCO2排出実質ゼロ達成に向けて合計することができることです。
省エネ対策の代表は建物の断熱化でしょうか。これまで太陽光発電など再エネによる発電にしか目を向けてきていませんが、建物の断熱化を進めて壁や窓から熱や冷気が漏れないようにすれば、家庭や事務所の光熱費を抑えることができるのはもちろん( ⇒省エネと電力削減)、社会全体としてのCO2排出削減につながりますから、CO2排出実質ゼロ達成を目指す最終目標との関係で大変合理的な着眼だと思います。詳しくは、16頁の「C 脱炭素先行地域内の民生部門の省エネによる電力削減量 (kWh)」を参照ください。
2 我が国は2020年10月に「2050年カーボンニュートラル」を目指すことを宣言し、2021年4月には2030年度の新たな温室効果ガス排出削減目標として、2013年度から46%削減することを目指し、さらに50%の高みに向けて挑戦を続けるとの新たな方針を示しています。
そして、2021年10月22日閣議決定された第6次エネルギー基本計画では、CO2排出の削減のため、太陽光と風力の主力電源化を目指すとともに、2030年電源構成の見通しとして、再生可能エネルギーの割合を現状の18%から2倍の「36%から38%」まで引き上げる方針を示しています。
3 政府の目標でさえ上記のとおりですから、脱炭素先行地域の申請計画に民生部門(家庭部門及び業務その他部門)のCO2排出実質ゼロ実現を盛り込むなんて、「そんなの無理❢」というのが、普通の素直な反応かと思います。そのうえ、上記イメージ図には、「固定価格買取制度 (FIT制度) を利用して発電・売電される電力を脱炭素先行地域内で消費する場合は、環境価値が付加された状態で調達されたものを除き「再エネ等の電力供給量」には含まない。」との注が付されています。
※ 引用文中下線を施した部分の意味は、FIT制度を利用していないくらいの意味かと思いますが正確には分かりません。なお、14頁にもPPAの説明に関連して「…再エネ発電設備で発電した電気を、地域内電力需要家が電気と環境価値が紐付いた状態で調達し消費する契約形態」は自家消費等に含まれるという説明がされています。専門家にはこれで十分通じるのでしょうが、素人が相手のガイドブックですから、もう少し分かりやすい普通の表現をしてほしいと思います。
4 「固定価格買取制度 (FIT制度) を利用して発電・売電される電力を脱炭素先行地域内で消費する場合は・・・「再エネ等の電力供給量」には含まない。」というのは、環境エナジータウン直方の成否を左右する極めて重要な判断基準であると考えています。
市民と家庭の立場から考えると、FIT制度を利用して太陽光パネルを設置するというのはきわめて自然です。FIT制度があるからこそ、太陽光パネルの設置は大きく増えたと言っても間違っていないはずです。
そうであるのに、脱炭素社会を創ろうという大きな政策目標を実行に移す段階になって、FIT制度を利用するものは「再エネ等の電力供給量」には含まないとするのは、どういう意図からでしょうか。その真意や目標との整合性が問われますが、寡聞ながらそんな情報に接していません。FIT制度を利用して経済的メリットを受けるのは太陽光発電を設備した個人と家庭ですが、太陽光発電が増えて地域が脱炭素化したからといって個人と家庭が追加的な経済的メリットを二重取りするわけではありません。
※補足(2022.3.30)
太陽光発電で得た電気を固定価格買い取り制度(FIT)を利用して売電する際の買い取り価格は、FIT制度が導入された2012年度は1キロワット時あたり約40円であったが年々低下し、2023年度は9・5円になる見込みのようです。そうだとすると、上記した「固定価格買取制度 (FIT制度) を利用して発電・売電される電力を脱炭素先行地域内で消費する場合は・・・「再エネ等の電力供給量」には含まない。」ことの影響は実質的にかなり小さくなり、初めから脱炭素先行地域の枠組みに乗る意味があることになります。
5 ところで、<再エネ等の電力供給量の算出方法> の初めに挙がっています「自家消費等」についての説明を見ますと、PPAにより設置するものも含むとされています(14頁)。結局、FIT制度を利用する場合は再エネ等の電力供給量には含まないが、PPAにより設置するものは含まれるということです。したがって、環境エナジータウン直方の創造を目指す立場からは、実現可能な形でPPAを導入することが決定的に重要になると考えられます。これについて環境エナジータウン直方は別の機会に検討します。
※PPAとは、Power Purchase Agreement (電力購入契約または電力販売契約)の略で、施設所有者が提供する敷地や屋根などのスペースに、太陽光発電設備の所有・管理を行う会社(PPA事業者)が設置した太陽光発電システムで発電された電力を、施設所有者が有償で利用する仕組みです。「太陽光発電を第三者が所有する契約モデル」などと紹介されていますが、施設所有者である個人や家庭が初期費用をかけずに太陽光発電を導入できるものとして注目されています。
6 PPAによる発電が含まれるという以外に【評価事項】として以下の4点が示されていまして、必ずしもその意味は明確でないのですが、なんとはなしにこれなら実現に向けて取り組めそうな気もしてきます。環境省に照会等してクリアできる方策を見つけなければいけないことは確かです。
- 脱炭素先行地域内の民生部門の電力需要量の規模が大きいこと
- 脱炭素先行地域内の民生部門の電力需要量に占める当該脱炭素先行地域のある地方自治体で発電する再エネ電力量の割合を、可能な限り高くすること
- 今ある技術を活用し、全国の多くの地域で取り組みやすいものであること
- 技術的に確立されているが、社会実装された例が少なく先進性があること
7 その他、【確認事項の該当性の確認方法】では、上記した「A 脱炭素先行地域内の民生部門の電力需要量(kWh)」の他に、「B 脱炭素先行地域内の民生部門に供給される再エネ等の電力供給量 (kWh)」および「C 脱炭素先行地域内の民生部門の省エネによる電力削減量 (kWh)」(再エネ等電力供給量)について、専門的な情報や算定イメージなどがかなり詳細に説明されています(ガイドブック11-16頁)。
電力については私も門外漢ですが、まずは原文を直接読んでいただいたうえで、何人かで議論し意見交換して相談すれば理解できると思います。頑張りましょう。
(6⃣-03-④-1-2に続く)