いこま市民パワーの活動状況と成果を確認します。そして、実際の活動状況と成果を確認すると同時に、克服しなければならない課題を指摘します。
1⃣ 電力の調達と電源の割合
⑴ 電力の調達
いこま市民パワーの電力調達は、大きく分けて二つ、生駒市内の太陽光発電や小水力発電等の再エネ電源と再エネ電源だけで不足する分約90%をパートナー事業者である大阪ガスから非再エネ電源のバックアップを受けています。
スタートした当初は、小売電力供給量に占める再エネ電源の割合は約3%でしたが、2019年度からTJグループが運営する木質バイオマス発電所から電力供給を受けており、それを加えると電源に占める再エネ比率は約10%です。
そして、2021年3月時点では、太陽光発電が2%、水力発電1%、バイオマス発電7%で、計10%。残りの90%は二酸化炭素(CO2)を排出する火力発電に依存しています。
これは国の2021年度電源構成に占める再生可能エネルギーの割合が約20%であることと比べても低い数字です。スタートしたばかりの地域新電力としては致し方ないのかもしれませんが、満足できる状況でないことは間違いありません。
⑵ 再エネ電源の確保
地域新電力が中心になり、再エネ電源を確保し、それを市民や事業所に供給して電気の地産地消を達成して、経済の地域循環と自立的で持続的な地域社会を実現するという視点からすると、いこま市民パワーの電源構成と小売電力供給量に占める再エネ電源の割合が約3%、バイオマス電源を加えても約10%というのは、克服すべき大きな課題です。
そこで、いこま市民パワーの電源に関する実情を見てみます。
そうしますと、太陽光発電による再エネの調達は、市所有が6施設であることはともかく、市民共同太陽光発電所は4基にとどまっています。いこま市民パワーは、設立が2017年7月、電気の供給開始が2017年12月であり、従業員数が正社員1名、臨時職員2名(2019年10月時点)ですから、早期に大きな成果を求めるのは酷かもしれません。
それでも「環境モデル都市」を名のり、『日本版シュタットベルケモデル』事業を展開するとしていたのですから、なんとかして再エネ電源の割合が4割を超えるように努め、欧州主要国や3割近い中国に比肩するようになってほしいところです。
⑶ 再エネ電源の割合を高める課題を解決する方法
事例集では「今後のビジョン・方針」として、「いこま市民パワーは、生駒市が推進する施策の中核を担う企業として、目標達成の切り札となりうるよう事業拡大を図る」との方針が示されています。さらに、「中長期計画に掲げた目標を着実に実現し、再エネ電源の獲得及び供給先の拡大」を図るとしています。正しい方向性が示されていると思います。
しかし、目下のところ、「地産再エネ電源拡大」(「地域課題と解決方法等」)の方法としては、「FIT買取期間終了後の電源についても積極的な活用を検討」「(一社)市民エネルギー生駒の発電事業と連携し、再生エネ電源の確保に努める」が示されているだけです。
また、「課題・今後のビジョン」の「再エネ電源の確保」としても、「民間主導の木質バイオマス発電からの電力調達を拡大(予定)」と「家庭の卒FIT電力の早期調達開始に向け、検討を進める」とするに止まっています。
上記した方策が間違ってるというのではありませんが、課題の解決策としては弱い印象を受けます。つまり、家庭の卒FIT電源を確保するというのは、これから年単位で時間が経過していくときに家庭単位で徐々に実現していくことでしょうから、即効性に欠けます。もう少し早い時期に結果を出せる、より積極的な再エネ電源新規増設等の方針と具体策を打ち出してほしいと思われるのです。
たとえば、市民が所有ないし管理する太陽光発電所を拡充するなどというのは、周りが勝手に言うほどにたやすいことではないとは思うのですが、いこま市民パワーは市民団体が自治体新電力に参画している希少な挑戦例ですから、環境とサステナビリティ意識の高い市民の賛同や参加をさらに募るなどして再エネ電源を増設拡充できる可能性が高いのではと思うのです。
⑷ 電気の小売り販売量は地域新電力としてもかなり小さい
いこま市民パワーの目標は高く大きいのですが、出資金総額は1,500万円でさほど大きくないことの限界なのでしょうか、2020年12月の電気の小売り販売量は2411千kWhでして、地域新電力としては平均程度の規模です( (研究所だより№170(2021年5月)、「新電力ネット」などの情報を参照)。
【追記】 2022年度「全国の小売電気事業者(新電力)販売量ランキング」(エーラベルe+)では月間と年間とも上位100社にランキングされていません。)
関連して思うことがあります。論点が少し逸れますが、いこま市民パワーは、電力小売事業による収益を株主に配当せず、子育てや教育など地域の課題を解決するコミュニティサービスを提供するという形で、利益を市民に還元する方針を打ち出しています(参照、事例集冒頭の「ポイント」および事業目的・ビジョン)。
たとえば、2019年1月には、市内の全小学校の新入生を対象に、ICタグを利用した登下校見守りサービス(ICタグを携帯する児童が学校の校門を通過すると、保護者宛てに通知メールが送信される)を提供しています。
収益が出たとしてもそれを株主に配当せず地域活性化等のために活用するというのは志の高いことだとは思います。そして、地域新電力として活動を進めるとき、いろんな考え方や戦略があるとは思うのですが、私は当面は再エネ電源の割合を増やすことを優先してほしいと思います。
私はこの地域の大学に2年間務めた経験があるのですが、生駒市の住民意識や環境意識は相当高いと感じていました。ですから、コミュニティサービスを提供して市民の間にいこま市民パワーの存在を浸透させることに力を割かなくても、適切なPRをすれば意識の高い市民からICPの活動に対する理解を得ることができると思われるので、先ずは再エネ電源の割合を増やすことを優先していいと思うのです。
それに、“電気の地産地消を実現しエネルギーコストの地域内循環を確立する”ということは地域新電力としてのいこま市民パワーにしかできませんが、上記したようなコミュニティサービスの提供は他にも適切な団体が分担できると思うのです。
「市民団体が出資に加わる全国初の自治体新電力」であることのプライドと使命感を貫いて上記最終目標を達成することが、なによりの地域貢献になると確信します。
2⃣ 電力の供給
⑴ 自治体新電力は、出資する自治体の公共施設に電力を供給することから事業をスタートし、確実に一定の売上高を確保して経営の安定を図るというのがほとんどのようです。前回、紹介したCoco テラスたがわの場合も、販売電力量に占める公共施設向けの割合が極めて高かったのですが、いこま市民パワーも民間事業者向けが皆無ではないというだけで、公共施設への供給がほとんどのようです(事例集では電力供給の範囲は市内(公共施設・民間事業者)となっています。
しかし、エネルギーコストの地域内循環というとき、その主眼は市民である家庭や民間事業所が支払う電気代が地域内の電気供給者の収入になって地域内を循環することにあります。せっかく自治体新電力がスタートしても、その供給先が自治体の公共施設にとどまるというのでは、家庭や民間事業所が支払う電気代は従来どおり地域外の電気供給者に支払われて地域外に流出していますから、いつまで経ってもエネルギーコストの地域内循環は達成されません。
ですから、自治体新電力にとっては、家庭や民間事業所への供給をスタートし展開することは、自治体新電力の存在意義に関わる最重要事項です。大手の系統電力に慣れ親しんできた家庭や民間事業所に自治体新電力が食い込むことは周りの人間が言うほど容易なことではないでしょう。しかし、出資企業に名を連ねている南都銀行や生駒市とも協力して、困難な状況を克服してほしいと願わずにいられません。
【追記】 注 自治体新電力を対象としたアンケート調査結果によると、回答があった自治体新電力(回答数 35)のうち1社を除く 34 社が出資を受ける自治体の公共施設に供給しています。そして、供給電力量に占める公共施設への供給割合(電力量ベース)は、平均値69%(中央値75%)であり、公共施設への供給割合が90%を超える自治体新電力が14 社あり、公共施設にしか供給していない自治体新電力も多いようです(稲垣憲治・小川祐貴「自治体新電力の現状と課題」 、国際公共経済研究第31号(2 0 2 0 年)、17頁)。
3⃣ 関連情報 生駒市、「環境モデル都市」やSDGs未来都市に選定
いこま市民パワーのことではなく生駒市の話です。平成26(2014)年3月、生駒市は内閣府の環境モデル都市に選定されています。大都市近郊の住宅都市では全国初ということです。
『市民力』をキーワードとした取組が高く評価されたようでして、市民・事業者・行政の“協創”で築く 低炭素“循環”型住宅都市を謳っています。
そして、環境モデル都市として低炭素社会の実現に取り組む目標を掲げ、温室効果ガスを2030年度には 2006年度比35%削減、2050年度には2006年度比70%削減を目指すとしています。
ところで「第2次生駒市環境モデル都市アクションプラン」(2019年3月策定)では、いこま市民パワーを施策の中心的な主体に位置付けていました。
また、この取組み姿勢が評価されたようで、 2019 (令和元)年7月には、環境省のSDGs未来都市に選定されています(https://future-city.go.jp/data/pdf/sdgs/sdgs_bk_backup.pdf)。いこま市民パワーは、新電力事業を中心としたまちづくりが高く評価されたと自己評価しています。 (つづく)