ふるさと直方フォーラム

《目標スローガン》 “人とモノとカネが往来し、循環する直方と筑豊を創ろう‼”  ふるさと直方と筑豊の再生に取組む主体をふるさと直方を愛するみんなで創ろう❣

直方市の2050年までの人口推移予測が発表されています  2023.12.23

   国立社会保障・人口問題研究所が、2050年までの「地域別将来推計人口」を公表しました。

 それによると、2050年に日本の総人口は20年比2146万人減の1億468万人となるそうです。東京への一極集中がさらに進み、東京都を除く46道府県で20年の人口を下回ると推計しています。

   直方市もこの減少傾向にあり、直方市の人口推移は下図のとおりです。

 人口減少と高齢化が同時進行するわけです。直方市の街づくりの施策を考えるとき、何より一番に頭の中に置いて考えなければいけない基礎条件だと思います。

直方市2050年までの人口推移 by 国立社会保障・人口問題研究所

 

 

 

一方、すると予想した。

Cocoテラスたがわ: 地域新電力としての志は指定管理者やPFIで満足する程度のものか!?  その4 2023.12.18

6 Coco テラスたがわの「今後のビジョン」

 Coco テラスたがわは、「今後のビジョン」として、「環境、エネルギー、産業、福祉、観光、災害対応など田川市が抱える様々な課題をワンストップで解決できるオンリーワン企業を目指す」と述べています(中川・地域経営②③⑬はこの立場か)。

 ワンストップ窓口は流行ですが、法規により定められている複数の責任と権限を単に一カ所に集中して処理すれば問題が解決されるというものではありません。そうではなく、市民の負担を最小限にするために、権限と責任を有する担当部局が適切に連携して取り組もうとするものと理解すべきです。

 つまり、上記「 」で、環境、エネルギー以外の「産業、福祉、観光、災害対応など田川市が抱える様々な課題」については、行政責任論の視点から、明確にされている組織編制と事務分掌のもとで、事務処理の権限と責任を有している市役所内の部課がそのための予算措置をしっかり手当して実施すべきものです。地域外のコンサルが主導する民間企業に丸投げして済むものではありません(中川・同上地域経営②③⑬、特に⑬が示す理解とは異なることになります)。

 視点は違いますが、環境とエネルギー以外の課題に対して取り組むのは、やはり地元の人間でなければだめだと思います。地域外の人から指示されて行動するというのであれば、それは地方分権時代以前の機関委任事務時代に中央省庁から通達等で指示されていたのと同じことになります。霞が関統治による機関委任事務時代が20世紀末、地方における財政と地方自治の崩壊で終わり、地方分権への真摯な取組みを余儀なくされた経緯を忘れてはいけません。

 要するに、地域外の専門コンサルが、地域新電力設立や運営の根幹に関する事柄にまで介入して決定的な影響を及ぼしたり、「行政マネジメント」の担い手としての有用性を高めて「地域経営」を主導する(同上⑬参照)ことには大きな疑問を感じます。

 地域外からの専門家に支払う報酬に相当する金額が地域外に流出するからということもありますが、一番の理由は、地産地消と地方創生といった地域の大きな課題に取り組むのは、やはり自分事として腹を据えて取り組む覚悟のある地元の人間でなければならないと確信するからです。

 失敗しても逃げ場のない人間こそが、子や孫の未来のために、電気の需要家になりうる地域の人々に、地産と地消の仕組みづくりの意義を説き、理解して参加してくれるよう根気強く説得できると思うのです。極論すると、そんな覚悟のある地元の人間がいなければ、外部からいくら立派な考え方や資金が投入されても、本当の成果を出すことは難しいと思います。

7 まとめ

 Coco テラスたがわについて、厳しい評価をしてしまいました。

 厳しい評価をすることになった理由を考えてみるのですが、最大の理由は、地域新電力を設立するのは何のためであるかを、Coco テラスたがわの設立当初に関係者がしっかりと確認していなかったからだと思います。

 あるいは、地産地消という大きな目標を目指すべきことは知っていたが、その実現困難性を予想したので、あえてその道を探求することはしないで、【ポイント】と「事業目的・ビジョン」に掲げる不明瞭な道を進むことにしたのかもしれません。そして、卸で仕入れた電気を公共施設などの需要家に供給・小売りして、あるかないか不明な差額という利ザヤを確保することでCoco テラスたがわを設立した目標を達成できたと考えていたのかもしれません。

 そこで、もう一度ここでお尋ねしておきたいのですが、持続可能な地域社会の基盤を確立したいとの希望はなかったのでしょうか。けしてそうではないと思います。地域に潜在する再生可能エネルギーに着目し、地産地消の仕組みを工夫することにより、市民生活と事業活動に不可欠な電気料金という経済が地域内を循環することが可能になる、そして、地域新電力はそのために有用であるとの判断もあって自治体新電力を設立しようとした動機もあったはずです。

 現に、2020年1月から「一般家庭・店舗・小規模事業者向け電力供給サービスを開始」(Coco テラスたがわのHP)と発表しています。しかも、そのための「電力供給は、提携先であるミツウロコグリーンエネルギーからとなります」としていますから、そこでは再エネの地産地消をスタートできていることになります。このことを【ポイント】と「事業目的・ビジョン」でも再確認して明記し、再エネ電源を開発すると共に、一般家庭や店舗など向けの電力供給・地消サービスを大きく発展させていくことが期待されます。

 Coco テラスたがわがその歩みを始めるとき、同じ筑豊地区の直方に住む者として私たちもCoco テラスたがわと連携させていただいて、未来の世代のためにも、共に取り組む活動が見つかると信じます。       以上

 P.S. 

 ご意見や感想をお寄せください。事実誤認はもちろんですが、考え方や評価の異なることがあると思います。地域の持続可能な発展を願う立場からのものについては、一生懸命に考えて返信させていただきます。

Cocoテラスたがわ: 地域新電力としての志は指定管理者やPFIで満足する程度のものか!?  その3 2023.12.17

5 Cocoテラスたがわの出資者と経営責任者

 Cocoテラスたがわの最高責任者である社長職にパシフィックパワー(株)の幹部が社長に就任していること、そして他にもう一人、当時の田川市建設経済部長も(共同)社長に就任しています。以下では、Coco テラスたがわが取り組む事業や業務との関係で、田川市の幹部職員が社長などの経営責任者の地位に就いておくことの意味を考えます。

  A Coco テラスたがわがJEPXで調達した電気を市内の公共施設に供給する場合

    ⅰ Cocoテラスたがわは「経営業務全般」をパシフィックパワーに委託し、パシフィックパワーの幹部がCocoテラスたがわの(共同)社長に就任しています。自治体が出資して自治体新電力を設立するとき、それまで経験したことのない電力事業分野ですから、自治体新電力に関する様々な事情や状況(中川・地域経営②③④など参照)を理解している電力事業の専門家であるコンサルから助力を得ることは分かりますし、必要で有益なことだと思います。

 ⅱ 前述したようにCoco テラスたがわが実際に行ってきたメインは、JEPXで調達した電気を主に市内の公共施設に供給することです(以下、「電気の調達と小売り」という)。このJEPXで調達した電気を市内の公共施設に供給するということは業務内容として極めて明確です。

 そのため、「電気の調達と小売り」の業務を遂行するさい、通常の行政事務のように民主的な統制に留意する必要性はなく、効果的効率的に遂行することを重視して、そのための環境や条件を整えることに専念しやすいと言えます。

 この点、中川・地域経営⑤が「自治体新電力の担う小売電気事業は、施設運営の指定管理 や P F I 等と類似する」という認識を示していることが示唆的です。すなわち、田川市がやろうとしている事業は、指定管理者を指名して行うことが考えられるが、その事業がたまたま小売電気事業であるため、自治体新電力という形式で実施することになったと捉えるわけです。

    ⅲ そうすると、差し当たっては指定管理者に求められることと同じように、Coco テラスたがわの業務を効果的効率的に遂行することが重要な使命という訳ですから、当時の田川市建設経済部長がもう一人の社長に就任しているのは何のためか、その意義が問われます。

 何故かと言いますと、Coco テラスたがわは官と民が共同出資するいわゆる“3セク”です。第3セクターの場合、官の側から社長職などの経営責任者を出すことが従来は一般的でした。しかし、官の公共性と民の効率性を狙った第3セクターが、えてして官の不効率性と民の非公共性を招く結果に終わることが多かったことは記憶に新しいところです。ですから、自治体が出資する団体ということで、なんとはなしに自治体の幹部職員を経営責任者として参加させておくというのは、第3セクターの失敗経験を忘却した安易な考え方との批判を受けるように思われます。

    ⅳ 中川・地域経営④は、自治体は各部署・各施設で個別の入札により電力調達を行ってきたが、自治体新電力であれば個別契約から一括契約に変えることができ、行政事務の集約管理・効率化のメリットを創出できる旨述べています。Cocoテラスたがわの場合ですと、JEPXで調達した電気を市内の公共施設に供給(販売)するとき、Cocoテラスたがわに田川市が出資し、そのうえ田川市の幹部職員がCocoテラスたがわの社長に就任していると、面倒な競争入札の手続きを要求されずに済むといった利点が考えられるようです。

 結局、競争入札の手続きを要求されずに済むといった利点とCoco テラスたがわが持っている指定管理者的な側面を重視して効果的効率的な業務遂行体制を敷くことのいずれを優先させるかの問題であり、議論の余地があると思います。そして、競争入札の手続きを要求されずに済む利点を優先させて幹部職員が社長に就任することを選択するにしても、Coco テラスたがわの業務執行を監視監督することは監査役なりに任せる方がいいと思います。極論すぎるかもしれませんが、市の幹部職員は形式的に社長に就任しているだけでよく、それ以上の働きをすることはCoco テラスたがわの指定管理者としての機能を阻害することになるため、抑制的に行動することが望まれるということです。

   ⅴ なお、ロシアのウクライナ侵略による石油やガスなどの燃料高騰があり、この1、2年、JEPXで電気を調達する仕入れコストが急上昇しており、電気小売事業から撤退する地域新電力が続発しているというニュースを耳にします。Cocoテラスたがわも、こうした状況に迅速に対応することを迫られている筈です。そこで、こうした状況変化に迅速に対応するために、市の幹部職員がCocoテラスたがわの社長に就任している意味があるという意見があるかもしれません。

 しかし、行政の組織と活動は、原則、あらかじめ定められた行動準則に従い行動するように定められています。予測されていない事態については、あらかじめ定められた行動準則もないでしょうし、行政の組織は一般的にそうした事態に迅速に対応することは不得意です。自治体から派遣されている幹部職員も同様です。したがって、不測の事態が生じうるという理由で、自治体の幹部職員が社長などの経営責任者の職に就いておく意味はないと思います。

 B Cocoテラスたがわが発電施設を設置または買い取り、その後、施設を管理運営する場合

 自治体新電力としてのCocoテラスたがわは、JEPXで電気を調達するだけでなく、発電事業者としての登録を済ませ、自己の事業選択として発電施設を設置したり買い取り、その管理運営に当たること(以下、「発電施設の設置と管理運営」という)が考えられます。

  すると、この発電施設の設置と管理運営は、まさにPFI手法(Private Finance Initiative:プライベート・ファイナンス・イニシアティブ、公共施設等の建設、維持管理、運営等を、民間の資金、経営能力及び技術的能力を活用して、国や地方公共団体等が直接実施するよりも効率的かつ効果的に公共サービスを提供しようとする手法)で実施することが想定されている場面です。

    つまり、名目上、PFI事業として行う場合は、PFI法(民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律、1999年(平成11年)7月成立、同年9月施行)が定める民間事業者の募集、評価・選定、公表などに関する手続きに従い実施することが求められます。Coco テラスたがわが発電事業者として登録・届出さえしておけば、PFI事業として行う場合に求められる手続に関する規制を踏む必要は生じないわけです。

   そうしますと、ここでもCoco テラスたがわが実質、指定管理者的に機能する場合に検討したことと同じような事情が存在することになります。したがって、田川市の幹部職員が社長などの経営責任者の職に就くことは、PFI法の趣旨に照らして考えても適切でないことになります。 

 Ⅽ Coco テラスたがわがJEPXで調達した電気を市内の公共施設に供給するだけでなく、市内の多くの事業所や一般家庭にも供給・販売する場合(以下、「事業所や一般家庭への電気の供給販売」という) 

 ⅰ このとき、市役所の職員が責任者として名を連ねるメリットは、地域内の事業所や一般家庭に対する市役所の信用でしょう。したがって、事業所に対する電気の販売では市役所の経済関係の管理職が、また市民に対する販売では市民課などの管理職の地位にある者が社長として名を連ねることに意味があるかもしれません。

 しかし、実際には市内の公共施設に供給するだけで、事業所や一般家庭に供給・販売していないので、市役所の経済部長が社長職に就いている意味はなかったのです。なお、「一般家庭・店舗・小規模事業者向け電力供給サービスを開始」した2020年1月からは市民課などの管理職の地位にある者が社長として名を連ねることに意味があるかもしれません。

    ⅱ 市内の事業所や一般家庭に積極的に電気を供給・販売しようとする場合を考えてみます。その場合、普段担当している行政事務の処理からすると、(電気の)販売はあまりになじみが薄く、効果的な販売作戦を計画し実行できるか疑問です。ですから、市としては最初から出資者として名を連ねるだけにとどめておく方が賢明かもしれません。社長として名を連ねることは既定路線であり、どうしても変更できないというときは、効果的な販売作戦を計画し実行できる組織体制が別に必要だと思います。

    その点、Cocoテラスたがわに出資している地元色の強い信用金庫等であれば、普段から各種サービスを提供して市民の側にも馴染みがあるので、社長職に職員を派遣して効果的な販売普及作戦を計画し、それを実行できる可能性が高まると思われます。あるいは、2021年の銀行法改正により金融機関は銀行業高度化会社を活用して、さらに幅広い業務を営むことが可能になっていますから、新しく子会社を設立して活動することも考えられます。 

    ⅲ ところで、地域内の事業所や一般家庭に本格的に供給・販売しようとする場合、将来的には卒FIT対応などを含め、事業所や一般家庭に分散している多数の電源と需要家を束ね、大手の系統電力との関係で適切に電気の需給調整を遂行しなければならないという大きな課題があります。もちろん、電気の需給調整をするための専門能力が求められます。この点、市役所の経済部長など市の幹部職員が社長として名を連ねておいても何の役にも立たないと思われます。

    逆にと言うと少し変ですが、Coco テラスたがわに28.7%の出資をしているNECキャピタルソリューション(株)は、多数の需要家相手の電気販売について、経営責任者として適任であったのではないかと思います。

    どうしてかというと、NECキャピタルソリューション(株)が28.7%の出資をした目的は明確にされていませんが、同社が28.7%という大きな割合の出資をした背景には、事業所や一般家庭などに分散する多数の小規模電源を束ねる、いわゆるアグリゲートビジネスを実証体験したいとの狙いがあって、2017年という早い時期に出資参画したのではないかと推測されるからです(ただし、Cocoテラスたがわへの出資参画を発表した平成29年6月13日「新電力会社Coco テラスたがわ株式会社への出資参画につきまして」を見ても、上記推測の真否を確認できません。

 ⅳ さらに、地域や市民生活に根差した面的広がりのある取組みを展開するという狙いからすると、できれば市民が組織するNPOなどの団体が出資し、社長職に就くことが考えられます。Cocoテラスたがわの場合、残念ながらそうした動きは見られないようです。

 (小括)  Coco テラスたがわが現実に行ってきた「電気の調達と小売り」はもちろんのこと、「発電設備の設置と管理運営」や「事業所や一般家庭への電気の供給販売」といった活動において、田川市の当時の建設経済部長が共同社長の職に就いて、官の公共性を保持する必要性と意味はほとんど認められません。むしろ、Cocoテラスたがわは無駄に人件費を支出しているかもしれず、第3セクターの失敗を繰り返すおそれが大きい社長就任であったことになります。

     (※ 6 Coco テラスたがわの「今後のビジョン」に続きます)

  

Cocoテラスたがわ: 地域新電力としての志は指定管理者やPFIで満足する程度のものか!? その2 2023.12.16

4 Cocoテラスたがわの活動状況成果

 再生可能エネルギーに着目して地産地消を実現することは、脱炭素社会を形成し、エネルギーの安全保障にも資するだけでなく、経済の地域内循環を生みだし持続する地域社会を創る確実な一歩になると言われています。このとき、地域新電力は有効な手段になる可能性を秘めていると考えています。

 以下では、Cocoテラスたがわの活動状況と成果を、地産地消やCocoテラスたがわの出資者および経営責任者に着目して検討し、参考にすべきことを学びます。

 ⅰ 地域新電力としてのCocoテラスたがわを設立した目的は明記されていません。   【ポイント】で示されている「地域内資金循環を促進するほか、地域産業の振興を図っている」ことが目的かと思われますが、ハッキリと明記されていません。

 そこで、「事業目的・ビジョン」で示されている「地域新電力事業で得られる収益を活用して公共施設等における省エネルギー化の推進など環境関連施策の展開を図るとともに地域活性化に繋げる」と結びつけて推測します。

 そうすると、地域新電力を設立する目的としては、一般的には“地産地消を実現して地域内の経済循環を達成する”などと考えられていますが、上記した「事業目的・ビジョン」は地域内の経済循環について言及していません。【ポイント】の「地域産業の振興を図っている」と「事業目的・ビジョン」で示されている「地域活性化に繋げる」との間に明確な関連性が認められるだけです。

 そして、産業振興や地域活性化についてはこれまでも多くの施策が実施されてきていますが、それら施策が地産地消や地域内の経済循環と結びつけて考えられたことはないと思います。少なくとも環境省が所管する地域新電力による地域脱炭素化推進のための施策との直接的なつながりを産業振興や地域活性化に見出すことはできません。

 

 ⅱ そこで、Coco テラスたがわは“地産地消を実現して地域内の経済循環を達成する”ことについてどのように考えていたのか検討します。

 すると、Coco テラスたがわが実際に行ってきたメインは、JEPX(Japan Electric Power Exchange、日本卸電力取引所)で調達した電気を市内の公共施設に供給することです。そうすると、JEPXで電気を調達するということは、そのために使った金額がJEPXを経由して地域外に流出することになります。

 すなわち、実際に行ってきた活動という点から見ると、Coco テラスたがわは設立当初から“地産地消を実現して地域内の経済循環を達成する”ことを目標とすることはなく、電気の小売り事業に参入していただけです。

 こうした活動の背景にある考え方を理解するために、中川・地域経営①が「自治体新電力の主業である小売電気事業の電力需給管理業務は外部委託可能で、初期投資・ 資産保有がほぼ不要であること、また、公共施設を主たる顧客としていることから、事業のリスクが低い。これにより事業として始めやすく行政内の意思決定も図りやすいものとなっている。」と述べていることが参考になります。

 地域新電力としての活動をスタートする最初のうちはそれもやむをえないかもしれませんが、電源、それも再エネを地域内に求める見通しを示し、そのための努力をスタートしないと地産地消は永遠に達成されません。

 ⅲ 「事業目的・ビジョン」で示されている「地域新電力事業で得られる収益を活用して公共施設等における省エネルギー化の推進など環境関連施策の展開を図るとともに地域活性化に繋げる」を、もう少し詳しく見てみます。

 CocoテラスたがわはJEPXなどから調達した電気を主に市内の公共施設に供給しています。そして、調達と供給(=販売)するときの差額を地域新電力の収益として計上し、その収益を「省エネルギー化の推進」や「地域活性化に繫げる」(「事業目的・ビジョン」)としています。

 この「地域活性化に繫げる」ことと「地産地消を達成することによる地域内経済循環の実現」にどれだけの違いがあるか、正確に数値に表して言うことはでませんが、地域活性化は地域内経済循環と比べて随分範囲が広く漠然としていることは明らかです。

 ※1 上記の調達と供給(=販売)するときの差額などについて、具体的に以下のような試算を示す報道がありました(ふく経ニュース  2017年7月18日、「地域電力会社「Cocoテラスたがわ」を設立 田川市」) 

   (電力の)供給先は田川市内の公共施設(約40〜50カ所)。同社の電力に切り替えることで電力使用料が年間およそ470万円削減されるほか、収益となる調達分に値する料金と供給価格の差額が約600万円になると見込まれており、新たに年間約1000万円を市の財源に充てることができる。

 ⅳ 再エネの地産地消を重視する立場からすると、小売り電力事業から収益が出たなら、その収益はなによりもまずは再エネ電源を拡充することや地域内の契約電力需要家を増やすための普及広報活動に用いるべきでしょう。そして、この作業を粘り強く繰り返して再エネ電源から得られる電力で地域内の電力需要を少しずつでも賄うことができるようになれば、できるようになった範囲で再エネ電力を売買する電気代という形で、地域内の経済の循環が始まることになります。

 ⅴ 電源構成に関係して地域新電力事例集では、Cocoテラスたがわは地域の再生可能エネルギー発電所との契約について「現在検討中」としています。また、「市内における再エネ発電の可能性について調査検討し、事業実施に向けた準備を行う」や「卒FIT対応が不十分であり、・・・家庭向けの小売・買取に対応したシステム拡充や体制構築が必要」であるとの予定や認識を述べています。したがって、少なくとも2021年3月時点では地産の再生可能エネルギーの電源はないと思われます。 

 ⅵ 地消については、「主に市の公共施設及び地域の民間企業」に4,446MWhの電気を供給しています(2018年度実績)。なお、新電力PPSポータルサイトに掲載されている「自治体出資の新電力一覧表」(2018年12月21日時点)でも、小売りの対象としての「一般家庭:未定」とされています。

  ※ ただし、2020年1月から「一般家庭・店舗・小規模事業者向け電力供給サービスを開始」と発表しています。しかも、そのための「電力供給は、提携先であるミツウロコグリーンエネルギーからとなります」としていますので、その限りでは再エネの地産地消をスタートできたことになります。今後、一般家庭など向け再エネの電力供給・地消サービスが大きく発展していくことが期待されます。

 ⅶ 市内の公共施設等に4,446MWhの電気を供給した(2018年度実績)以外に、地域の民間企業に対する省エネ診断を実施するなどとしていますが、それらは地域新電力事業で得られた収益の活用と呼ぶに値するほどのものか不明です。なお、環境省の脱炭素先行地域には第4回まで選定されていません。 

 なお、外部評価された表彰として、環境省の「平成30年度二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金」と「2019年度(令和元年) 再生可能エネルギー電気・熱自立的普及促進事業」という環境省の二つの補助事業に採択されています。これは活動の成果が表彰されたというより、補助事業を実施する体制作りがある程度できていることに対する期待の表れであって、成果をあげたことに対する褒賞ではないように思います。

 ⅷ 「地域新電力事業で得られた収益の活用」に関係して、公共施設等への電力供給による「電力コスト削減に貢献」としていますが、具体的な削減金額は分かりません。

 むしろ、Cocoテラスたがわは年間約1000万円の収益を見込んでいたようですが(上記ⅲの※1参照)、ロシアのウクライナ侵略による石油やガスなどの燃料高騰があってからはJEPXで電気を調達する仕入れコストが急上昇し、電気小売事業から撤退する地域新電力が続発しているほどの状況ですから心配です。ただし、中川・地域経営⑥は一般論ながらそうした心配を否定する趣旨のようです。

  (※  「5 Cocoテラスたがわの出資者と経営責任者」に続きます) 

Cocoテラスたがわ: 地域新電力としての志は指定管理者やPFIで満足する程度のものか!?  その1 2023.12.15

ロ 事例2‐4 Cocoテラスたがわ株式会社

 「地域新電力事例集」で紹介されているCocoテラスたがわの【ポイント】と「事業目的・ビジョン」は次のとおりです。

 【ポイント】 「地域内資金循環を促進するほか、地域産業の振興を図っている」

「事業目的・ビジョン」 「地域新電力事業で得られる収益を活用して公共施設等における省エネルギー化の推進など環境関連施策の展開を図るとともに地域活性化に繋げる」

 以下では、1 Cocoテラスたがわの概要、2 Cocoテラスたがわ設立の経緯、3 Cocoテラスたがわの事業運営と経営戦略、4 Cocoテラスたがわの活動状況と成果、5 Cocoテラスたがわの出資者と経営責任者、6 Coco テラスたがわの「今後のビジョン」について検討します。

1  Cocoテラスたがわの概要

 同じ筑豊地区の田川市を所在地とする唯一の新電力です。電力の小売りやまちづくりが主な事業です。設立は2017年6月、供給開始は2017年11月、資本金 870万円、出資構成は田川市(28.7%)、パシフィックパワー (株) (28.7%)、その他(42.6%、内訳はNECキャピタルソリューション(株) (28.7%)、田川信用金庫(4.6%)、福岡銀行(4.6%)、西日本シティ銀行(4.6%))です。田川市が出資しているので、間違いなく自治体新電力です。

2  Cocoテラスたがわ設立の経緯

 ⅰ Cocoテラスたがわが設立される始まりは、2016年8月の「市として産業振興、再エネ導入促進を目的とした地域新電力設立を検討開始」のようです。その後、「参画事業者を募るため地元企業への説明を実施」したり、「新会社への出資金を含む予算が市議会で承認」されるなどがあって2017年6月に設立されています。

 事務所機能は田川市役所3階の建設経済部内に置くとされ、社長には当時の田川市建設経済部長とパシフィックコンサルタンツの100%出資子会社であるパシフィックパワー(株)九州支社の技術次長が共同で就いています。

 ⅱ パシフィックパワーHPによると、パシフィックパワーは、公共支援を60年以上にわたり行ってきた親会社パシフィックコンサルタンツの社会的な信頼をベースに、 自治体、地元企業とパートナーシップを構築し、数多くの自治体新電力会の設立・運営に携わっている企業です。

 注目されるのは、Cocoテラスたがわの「経営業務全般」をパシフィックパワーが受託運営していることです(「事業運営」についてはNEC キャピタルソリューションも関与するとされています。「事業運営」は事業活動の範囲や対象を確定する広い概念で、「経営業務」は確定された事業を現実に管理運営することを意味していると推測しますが、正確な違いは不明です)。いずれにしろ、パシフィックコンサルタンツないし子会社であるパシフィックパワーの事業運営と経営に関する考え方がCocoテラスたがわの経営戦略と実務に大きく反映され影響を及ぼすことになったと思われます。

Cocoテラスたがわの事業スキーム

3 Cocoテラスたがわの事業運営と経営戦略

 田川の地域新電力ですから、さぞかし参考になることが多いだろうと、CocoテラスたがわのHPを含め、webで文献を探してみました。しかし「地域新電力事例集」(2021年3月)以外、ほとんど見当たりません。みやまスマートエネルギーについて議論している文献が多かったのとは大違いです。

 そこで、Cocoテラスたがわの事業運営と経営業務全般に大きな影響を及ぼしていると思われるパシフィックパワーの考え方を窺い知ることができる資料が見つかったので、一般論ですが適宜抜粋して紹介します。この後、以下でCocoテラスたがわの活動を評価するときに参照します(プロジェクトイノベーション事業本部サービスプロバイダ事業部付 パシフィックパワー株式会社出向 中川貴裕「自治体新電力を核とした地域経営への展開」、Management for the Power Company with Local Government 2023年4月。原文には数字番号や下線はありませんが、引用する便宜のため、以下では「中川・地域経営」①~⑬などとして引用しています)。

 ① 自治体新電力の主業である小売電気事業の電力需給管理業務は外部委託可能で、初期投資・ 資産保有がほぼ不要であること、また、公共施設を主たる顧客としていることから、事業のリスクが低い。これにより事業として始めやすく行政内の意思決定も図りやすいものとなっている。

 ② パシフィックコンサルタンツ株式会社(以下、「当社」という)は、以前から将来的な人口減少に伴う行政予算縮減を見据え、地域の新たな担い手として地域のインフラ・サービスの維持、地域振興等の新たな仕組みを創出する「地域経営」展開に取り組んできた。

 ③ 自治体新電力は地域内電源を地域内で活用するための仲介役としての役割のほか、外部流出していた資金(電気料金)の地域内還流、収益を活用した新たな事業展開などに期待を持って設立されている。この設立時の期待を踏まえると、自治体新電力が担うべきは、地域課題や地域経済成長を考慮した地域版GXを進めるための事業体としての役割であると考えられる 。

 ④ 自治体は、これまで多くが各部署・各施設で個別の入札により「安さ」を判断基準とした電力調達を行ってきた。これに対し、自治体新電力は、単に安さだけを追い求めるのでなく、個別契約から一括契約に変えることによる行政事務の集約管理・効率化、すなわち財政面での合理化や、地域内電源の最大活用による電力への付加価値創出といった、より多面的なメリットの創出に主眼を置きつつ、電力価格そのものも比較的手頃な水準とすることを目指している。

 ⑤ これまで各施設・各所管課で別々に行ってきた電力調達を、民間ノウハウを活用しまとめることで、比較的手頃な価格で、かつ地域内電源活用などの価値を加えることができる。この点で、自治体新電力の担う小売電気事業は、施設運営の指定管理 や P F I 等と類似するものと考えられる。

 ⑥ 実は、この効果は昨今のエネルギー高騰に当たっても功を奏している。多くの施設が、電力市場高騰により電気料金の値上げを余儀なくされ、入札では参加者不在で不調に陥り、高い電気料金(最終保障供給)を支払わざるを得ないといった状況が生じた。その中で、パシフィックパワーの関与する自治体においては、自治体新電力からの供給を積極的に維持し、最小限の傷口(予算増大)で済ませることができている。

 ⑦ 自治体新電力は、自治体出資とは言え民間企業であることから、事業にあたっては当然「採算性」が重要な要素となる。「収益事業」として成立させることがまず必要で、いかに理念的に良い内容であっても採算を伴わなければ事業化はできないという点を改めて認識する必要がある。

 ⑧ もちろん、再エネ導入などエネルギー事業の多くは、現状、FIT(固定価格買取制度)を含め、未だ国の補助金等がなければ 採算性確保が厳しいのも事実であり、その点もしっかり念頭に置きつつ、活用できる補助等の仕組みは最大限活用することが重要になる。

 ⑨ 小売電気事業を含むエネルギー供給事業はあくまで「小売」であるため、薄利多売の事業特性となる。さらには電力販売顧客が公共中心となることで、多売の範囲も限定される。これにより、着実に利益確保ができる可能性がある一方で、莫大な利益が出るわけではない。投資回収に時間がかかることとなり、再エネ導入などでは、10~20年などの事業期間となる。初期投資 のみならず、維持管理費や固定資産税負担なども生じるため、綿密な資金計画や資産管理体制の構築なども行う必要がある。

 ⑩ 自治体新電力で資産を保有した場合は、継続的な資産管理体制の構築が重要となり、事業期間中に地域住民とも円滑な コミュニケーションを図り、かつトラブルが生じた際などにも即座に対応していくために、地元企業からの支援が必須となる。したがって、地元企業に対し、協力企業として自治体新電力の事業に関わってもらう機会の創出のほか、何より、自治体新電力の目指す展開・地域像に関するアピール・意見交換などの機会の創出に心掛けておくことが重要になる。

 ⑪ 小売電気事業を含む収益事業を実現化していくプロセスでは多大な調整が必要となり、一朝一夕に進むものではない自治体新電力設立・運営によって実現したい将来の姿に対する市民・議会・庁内の共通認識化が最も重要であり、これが合意できれば、スピーディな事業推進が可能となっていくと考える。

 ⑫エネルギー関連で言えば、国では、地域の配電網(電線)の維持管理を地域主体に担わせていく議論(配電ライセンス)もされており、今後は、このような自立分散型システムの構築や、エネルギーインフラの管理体制の構築に向けた準備も実施していく必要 がある 。

 ⑬ 脱炭素・エネルギー面の効果と同時に、地域への様々な経済的・社会的効果をもたらす「行政マネジメント」の担い手としての有用性も見据え、当社グループとしては、これら多面的効果の最適・最大化により、「地域経営」の実現を目指していきたい。 (以下、「4 Cocoテラスたがわの活動状況成果」に続く)

飯塚市の庄内中学校校庭にある高さ20メートルのメタセコイアの木に生徒や市民がイルミネーション飾りつけ・・・嬉しく暖かくなるニュースを見ました 2023.12.4

 なんとなく、嬉しく暖かくなるニュースを見ました。

 

飯塚市の庄内中学校の校庭にある、高さ20メートルのメタセコイアの木に、生徒や市民がイルミネーションを飾りつけ、点灯式が行われたという話です。

 学校のフェンスには生徒たちが紙などで作ったランタンおよそ1000個も飾られているということです。ランタンもいいよね~

 2年生の女子生徒が「イルミネーションの光でまちを包み、みなさんが明るく元気にすごせるといいなと思います」と話しているというのも、高齢者を喜ばせてくれます。

 だって、2年生といったら13歳か14歳でしょうから、そんな将来がたくさんある子がが、みんなのことを考えてくれているなんて、ほんとに明るい気持ちになります。


 このイルミネーションは年明けの来年の1月末まで午後6時から午後11時の間、点灯されるといことですから、皆さん、一度は見に行きましょう❣

イ 先見性・着想力・実行力が凄い みやまスマートエネルギー(みやまSE)には学ぶべき点が多い!  2023.10.23

   初めに「地域新電力事例集」(2021年3月。以下「事例集」としています) と次の①~④の文献を参照して検討します(すべてWEBでタイトル検索して閲覧できます)。

  ①加藤 伸一・日経BP総研クリーンテックラボ「福岡県みやま市、挑戦的な地域新電力に見る『理想と現実』(自治体と分散型エネルギー⑷ 公民連携最前線2019.03.08)

   ②みやま市環境経済部エネルギー政策課「みやま市のエネルギーの地産地消に向けた活動 ~エネルギーとしあわせの見えるまちづくり~」(発表年月不明、ただし2019年3月末時点の資料に基づき作成されている)。

   ③磯部達・みやまパワーHD(株)代表取締役「活力ある地方創生を目指した地域新電力の挑戦」(2020年2月19日)

   ④「自治体新電力の雄、みやまスマートエネルギーの混乱と再起への道のり 赤字決算やガバナンス問題に揺れた自治体新電力から見えたもの」(2021.06.21) 

 ⑤工場電気ドットコム「みやまスマートエネルギーで何が起きているのか」(2020年11月24日)

 ⅰ みやま市は人口約3万8300人で福岡県南部に位置しています。主な産業は農業です。みやまSEの事業内容は電力小売事業と生活サービス、設立は2015年2月、資本金2,000万円です。出資構成は、みやま市(55%)、みやまパワーHD(株) (40%)、(株)筑邦銀行(5%)です(ただし、現在は、みやま市がみやまパワーHDの保有していた株式を全株取得し、計95%を保有しているようです)。

 ⅱ みやま市が電力会社を設立したのは、「市内で生まれたエネルギーを市内で使うエネルギーの地産地消」が主な目的です (下図参照、③)。

みやま市が電力会社を設立した目的  ③ 
      

 事例集では、「全国初の自治体出資による電力事業会社」であり、「『日本初のエネルギー地産地消都市』を目指し、自治体新電力会社として、電力の収益を活用した地域課題解決を目的とした事業を展開」するとしています。設立が2015年2月でサービスの供給開始は2015年11月ですが、随分と早い時期に先駆的な取組みをスタートしていることに驚かされます。

 みやま市の電力事情は、それまでは九州電力から電力を購入し、みやま市内から年間約40億円~50億円が他の地域に流出している状況でした。これを、地元の再エネ発電所などで発電した電力を使う地域新電力で賄うとすると、約40億円~50億円が地元に残ることになると考えられています(①、下図参照。みやま市の「エネルギー、地産地消の流れ」については ⑷2023.8.23の図も参照)。

みやま市の「エネルギー、地産地消の流れ」 ①

 ⅳ みやまスマートエネルギー株式会社(以下、みやまSE)は地産地消を目標とするだけでなく、そこから得た利益でいろんな市民サービスを提供することを目的に掲げています。そうして従業員数は45名(派遣、パート含む)です。45名のうち20人強が電力事業に従事しているようです。いずれにしろ、人口約3万8300人の地域としては極めて大きな雇用を生んだと言えるようです。 

 みやまSEの業績は、設立当初の2015年度と2016年度は経常利益が赤字でしたが、2017年度(ないし翌年度)から黒字になり(④、下図参照)、2019年には累積赤字を解消したようです。

    みやまSEは、みやま市が当初55%出資していたいわゆる第三セクターです。第三セクターは、官の公共性と民の経済性両方のいいとこどりを狙って1980代後半~90年初頭にかけ多くが設立されましたが、現実の結果はほとんどが官の非経済性と民の非公共性に終わっています。

 そうした中でエネルギーの地産地消を掲げるだけでなく、黒字化できた経営手腕については素直に賞賛すべきと思います (ただし、2020年から21年にかけての冬の寒波で電力を調達する卸売市場の取引価格が高騰し、債務超過に陥ったようです。(産経ニュース「福岡・みやま市のみやまSEが再び債務超過」2021年8月2日、最新情報は未確認)。しかし、卸売市場における取引価格高騰の影響は民間出資100%の地域新電力も同じような苦境に陥っていることを考慮しなければいけません)。

みやまSEの業績  上の図は④から、下の図は①から

 ⅳ 少し詳しく経緯をたどります

 みやま市が、地域新電力の設立を主導するきっかけとなったのは、2014年に始めた家庭用エネルギー管理システム(HEMS)の実証事業で、市内の1万2000世帯中、約7分の1となる2000世帯にHEMSが導入されたことです。この実証が終わった後にも、HEMSを使った市民向けサービスを続けることを決め、それを実施する企業が必要になり、みやま市が過半を出資(55%)する地域新電力みやまSEを設立したようです。

 みやま市では、地域への太陽光発電の導入促進策として、2010年に市内の住宅用太陽光発電システムを設置する家庭に対する補助を始めています(1kwあたり3万円、最大12万円まで)。これにより市内の住宅における太陽光発電の普及率は補助開始前の8.9%から約15%になり、全国平均の5.6%を10ポイント近く上回っています。

 また、再生可能エネルギーの推進策として、2013年には約16年間塩漬けであった市有地を活用し5MWのメガソーラーを設置しています。そして、みやまSEの設立後、2016年4月から自治体新電力としては日本で初めて家庭向けに電力供給を開始しています。

 なお、2014年には国からバイオマス産業都市に選定されています。これは、佐賀市大分県佐伯市とともに九州で初めての認定だったようで、2018年12月にはバイオマス施設が本格稼働し、循環型社会のまちづくりに取り組んでいます(以上、②③参照)。

 以上の経緯から、みやま市には早くから高い環境意識があり、環境志向に強く裏付けされた施策を展開していることが窺えます。

 

ⅴ [特記したいこと]

  a みやま市は人口約3万8000人、農業が主な産業の、けして大きくはない自治体です。それなのに、地域新電力としてはかなり早い2015年2月にみやまSEを設立し、設立の当初から「エネルギーの地産地消」を最大のコンセプトにして事業を続けてきた先見性と行動力をリスペクトしたいと思います。

 実際、みやまSEの低圧の年間販売電力量は、2018年度実績ですと28MWでして、他の自治体新電力のほとんどが0から2MWhであるのと比べると断然大きいのです。

  b エネルギーの地産地消を実際に進める方策として、NTTスマイルエナジーと協定を結び、みやま市の31カ所の市有施設の屋根上に太陽光発電設備を導入したという・実現力にも驚嘆します (②、下図参照)。

三者所有モデル 地産地消型屋根貸し事業 with NTTスマイルエナジー

   具体的には、NTTスマイルエナジーと協定を結び、同社がみやま市の31カ所の市有施設屋根上に太陽光発電設備を新たに導入、新電力に売電しています。これは私たちが提案しているPPA方式による太陽光発電設備の設置と考え方の基本は同じと思います。

    地産地消の理念を示すだけでなく、それを実現に向け工夫し、行動に移していることを、PPA企業として登場しているNTTスマイルエナジーの名前とともに覚えておきたいと思います。 

  c 40%の出資者であるみやまパワーHD(社長がみやまSEと同一人物だった)は地域新電力6社から需給管理業務を受託していましたが、以下のeで述べる経緯があって、みやまSEがみやまパワーHDの保有する株式を全て取得したようです。

 そのため、みやまパワーHDで需給管理業務の実務を担当していた人物がみやまSEに移籍するなどしています。すると、需給管理についての経験は、みやまSEが今後地域に経営を集中していくときにも、VPP(仮想電力所)網を構築するための貴重な知的財産として引き継がれていくと思います。

  d 驚嘆し、賞賛するだけでもいいかと思いますが、地産地消について要望じみたことを述べます。

 地産地消のうち地産についてです。みやまSE社全体の電源構成に占める再エネ割合は「地域新電力事例集」(2021年3月)からは国の2021年度における再生可能エネルギーの割合である約20%を上回っているかどうか、明確に断定できません。

  どういうことかと言うと、みやまSE全体の電源構成は、原子力(9%)、FIT電気(23%)をどう評価するかで分かれてくるのです。そして、再生可能エネルギー(3%)、水力発電 (3%)以外は、LNG(29%)、石炭火力発電(20%)、石油火力発電(20%)となっています。

 ところで、2030年度の温室効果ガス46%削減に向け、国は再エネの電源構成を36-38%としています。上記の再生可能エネルギー(3%)と水力発電(3%)をさらに積極的に拡充して地産地消の地産を向上させる努力が求められると思います。

 地消については、供給契約数は当初目標の10000件に対し1219件(法人571件、個人648件、2020年2月末現在。)です。市内の法人は約1000社、市内の世帯数は約1万2000ですから、どちらも5割強が加入契約していることになります。

 5割強が加入契約済というのは、とても凄いことのように思えますが、地域の将来を左右する目標であり課題に関わることですから、住民や法人の間で問題意識と将来像を共有し、可能であれば8割9割の加入契約済を達成してほしいと思われます。

 そして、以下のeで述べる経緯があって、みやまSEは従来の経営方針を大きく見直し、地域間連携など全国への積極的な事業展開を中止して、みやま市を中心とした地域に集中することで市内の契約倍増などを進める方針へと舵を切ったようです。これにより地消が進むことを期待したいと思います(④に詳しい)。

  ※ みやまSEは、みやま市と同様の地域課題を抱えたエリアの地域新電力と地域間連携を進め、全国に積極的な事業展開をしてきたようです(東京都の外郭団体であり新電力事業も手がける東京都環境公社の需給管理支援を受託したり、東京都目黒区の公共施設に目黒区の連携都市である宮城県気仙沼市のFIT電気を供給したりしています。

  e 格別の先見性や実行力・実現力を有していたことの反面、みやまSEの元社長が、社長を務めていた「みやまパワーHD」など複数の会社との契約を、みやまSEの取締役会での承認を得ないまま交わしていたことは利益相反取引にあたる可能性があるとする市の調査委員会報告書が2020年2月にまとめられています。

 確かに、利益相反取引の不祥事は是非とも避けなければいけないことです。しかし、利益相反取引自体は当然に遵守すべき法令が守られなかっただけです。したがって、法令を確実に遵守する体制を整備すべきは当然ですが、地産地消を目ざしていた組織の活動までを悪者扱いするのは間違った態度と思います。

 外部に対する透明性や外部意見を取り込むなどのコンプライアンス対策を早急に施し、その後は、地産地消を実現して地域経済の循環を確立し、希望にあふれた明るい地域社会の基盤を構築するという、まだどこの地域新電力・自治体新電力も成し遂げてない夢の実現に向かって邁進してほしいと願うばかりです(同旨、④⑤)。    以上