5 Cocoテラスたがわの出資者と経営責任者
Cocoテラスたがわの最高責任者である社長職にパシフィックパワー(株)の幹部が社長に就任していること、そして他にもう一人、当時の田川市建設経済部長も(共同)社長に就任しています。以下では、Coco テラスたがわが取り組む事業や業務との関係で、田川市の幹部職員が社長などの経営責任者の地位に就いておくことの意味を考えます。
A Coco テラスたがわがJEPXで調達した電気を市内の公共施設に供給する場合
ⅰ Cocoテラスたがわは「経営業務全般」をパシフィックパワーに委託し、パシフィックパワーの幹部がCocoテラスたがわの(共同)社長に就任しています。自治体が出資して自治体新電力を設立するとき、それまで経験したことのない電力事業分野ですから、自治体新電力に関する様々な事情や状況(中川・地域経営②③④など参照)を理解している電力事業の専門家であるコンサルから助力を得ることは分かりますし、必要で有益なことだと思います。
ⅱ 前述したようにCoco テラスたがわが実際に行ってきたメインは、JEPXで調達した電気を主に市内の公共施設に供給することです(以下、「電気の調達と小売り」という)。このJEPXで調達した電気を市内の公共施設に供給するということは業務内容として極めて明確です。
そのため、「電気の調達と小売り」の業務を遂行するさい、通常の行政事務のように民主的な統制に留意する必要性はなく、効果的効率的に遂行することを重視して、そのための環境や条件を整えることに専念しやすいと言えます。
この点、中川・地域経営⑤が「自治体新電力の担う小売電気事業は、施設運営の指定管理 や P F I 等と類似する」という認識を示していることが示唆的です。すなわち、田川市がやろうとしている事業は、指定管理者を指名して行うことが考えられるが、その事業がたまたま小売電気事業であるため、自治体新電力という形式で実施することになったと捉えるわけです。
ⅲ そうすると、差し当たっては指定管理者に求められることと同じように、Coco テラスたがわの業務を効果的効率的に遂行することが重要な使命という訳ですから、当時の田川市建設経済部長がもう一人の社長に就任しているのは何のためか、その意義が問われます。
何故かと言いますと、Coco テラスたがわは官と民が共同出資するいわゆる“3セク”です。第3セクターの場合、官の側から社長職などの経営責任者を出すことが従来は一般的でした。しかし、官の公共性と民の効率性を狙った第3セクターが、えてして官の不効率性と民の非公共性を招く結果に終わることが多かったことは記憶に新しいところです。ですから、自治体が出資する団体ということで、なんとはなしに自治体の幹部職員を経営責任者として参加させておくというのは、第3セクターの失敗経験を忘却した安易な考え方との批判を受けるように思われます。
ⅳ 中川・地域経営④は、自治体は各部署・各施設で個別の入札により電力調達を行ってきたが、自治体新電力であれば個別契約から一括契約に変えることができ、行政事務の集約管理・効率化のメリットを創出できる旨述べています。Cocoテラスたがわの場合ですと、JEPXで調達した電気を市内の公共施設に供給(販売)するとき、Cocoテラスたがわに田川市が出資し、そのうえ田川市の幹部職員がCocoテラスたがわの社長に就任していると、面倒な競争入札の手続きを要求されずに済むといった利点が考えられるようです。
結局、競争入札の手続きを要求されずに済むといった利点とCoco テラスたがわが持っている指定管理者的な側面を重視して効果的効率的な業務遂行体制を敷くことのいずれを優先させるかの問題であり、議論の余地があると思います。そして、競争入札の手続きを要求されずに済む利点を優先させて幹部職員が社長に就任することを選択するにしても、Coco テラスたがわの業務執行を監視監督することは監査役なりに任せる方がいいと思います。極論すぎるかもしれませんが、市の幹部職員は形式的に社長に就任しているだけでよく、それ以上の働きをすることはCoco テラスたがわの指定管理者としての機能を阻害することになるため、抑制的に行動することが望まれるということです。
ⅴ なお、ロシアのウクライナ侵略による石油やガスなどの燃料高騰があり、この1、2年、JEPXで電気を調達する仕入れコストが急上昇しており、電気小売事業から撤退する地域新電力が続発しているというニュースを耳にします。Cocoテラスたがわも、こうした状況に迅速に対応することを迫られている筈です。そこで、こうした状況変化に迅速に対応するために、市の幹部職員がCocoテラスたがわの社長に就任している意味があるという意見があるかもしれません。
しかし、行政の組織と活動は、原則、あらかじめ定められた行動準則に従い行動するように定められています。予測されていない事態については、あらかじめ定められた行動準則もないでしょうし、行政の組織は一般的にそうした事態に迅速に対応することは不得意です。自治体から派遣されている幹部職員も同様です。したがって、不測の事態が生じうるという理由で、自治体の幹部職員が社長などの経営責任者の職に就いておく意味はないと思います。
B Cocoテラスたがわが発電施設を設置または買い取り、その後、施設を管理運営する場合
自治体新電力としてのCocoテラスたがわは、JEPXで電気を調達するだけでなく、発電事業者としての登録を済ませ、自己の事業選択として発電施設を設置したり買い取り、その管理運営に当たること(以下、「発電施設の設置と管理運営」という)が考えられます。
すると、この発電施設の設置と管理運営は、まさにPFI手法(Private Finance Initiative:プライベート・ファイナンス・イニシアティブ、公共施設等の建設、維持管理、運営等を、民間の資金、経営能力及び技術的能力を活用して、国や地方公共団体等が直接実施するよりも効率的かつ効果的に公共サービスを提供しようとする手法)で実施することが想定されている場面です。
つまり、名目上、PFI事業として行う場合は、PFI法(民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律、1999年(平成11年)7月成立、同年9月施行)が定める民間事業者の募集、評価・選定、公表などに関する手続きに従い実施することが求められます。Coco テラスたがわが発電事業者として登録・届出さえしておけば、PFI事業として行う場合に求められる手続に関する規制を踏む必要は生じないわけです。
そうしますと、ここでもCoco テラスたがわが実質、指定管理者的に機能する場合に検討したことと同じような事情が存在することになります。したがって、田川市の幹部職員が社長などの経営責任者の職に就くことは、PFI法の趣旨に照らして考えても適切でないことになります。
Ⅽ Coco テラスたがわがJEPXで調達した電気を市内の公共施設に供給するだけでなく、市内の多くの事業所や一般家庭にも供給・販売する場合(以下、「事業所や一般家庭への電気の供給販売」という)
ⅰ このとき、市役所の職員が責任者として名を連ねるメリットは、地域内の事業所や一般家庭に対する市役所の信用でしょう。したがって、事業所に対する電気の販売では市役所の経済関係の管理職が、また市民に対する販売では市民課などの管理職の地位にある者が社長として名を連ねることに意味があるかもしれません。
しかし、実際には市内の公共施設に供給するだけで、事業所や一般家庭に供給・販売していないので、市役所の経済部長が社長職に就いている意味はなかったのです。なお、「一般家庭・店舗・小規模事業者向け電力供給サービスを開始」した2020年1月からは市民課などの管理職の地位にある者が社長として名を連ねることに意味があるかもしれません。
ⅱ 市内の事業所や一般家庭に積極的に電気を供給・販売しようとする場合を考えてみます。その場合、普段担当している行政事務の処理からすると、(電気の)販売はあまりになじみが薄く、効果的な販売作戦を計画し実行できるか疑問です。ですから、市としては最初から出資者として名を連ねるだけにとどめておく方が賢明かもしれません。社長として名を連ねることは既定路線であり、どうしても変更できないというときは、効果的な販売作戦を計画し実行できる組織体制が別に必要だと思います。
その点、Cocoテラスたがわに出資している地元色の強い信用金庫等であれば、普段から各種サービスを提供して市民の側にも馴染みがあるので、社長職に職員を派遣して効果的な販売普及作戦を計画し、それを実行できる可能性が高まると思われます。あるいは、2021年の銀行法改正により金融機関は銀行業等高度化会社を活用して、さらに幅広い業務を営むことが可能になっていますから、新しく子会社を設立して活動することも考えられます。
ⅲ ところで、地域内の事業所や一般家庭に本格的に供給・販売しようとする場合、将来的には卒FIT対応などを含め、事業所や一般家庭に分散している多数の電源と需要家を束ね、大手の系統電力との関係で適切に電気の需給調整を遂行しなければならないという大きな課題があります。もちろん、電気の需給調整をするための専門能力が求められます。この点、市役所の経済部長など市の幹部職員が社長として名を連ねておいても何の役にも立たないと思われます。
逆にと言うと少し変ですが、Coco テラスたがわに28.7%の出資をしているNECキャピタルソリューション(株)は、多数の需要家相手の電気販売について、経営責任者として適任であったのではないかと思います。
どうしてかというと、NECキャピタルソリューション(株)が28.7%の出資をした目的は明確にされていませんが、同社が28.7%という大きな割合の出資をした背景には、事業所や一般家庭などに分散する多数の小規模電源を束ねる、いわゆるアグリゲートビジネスを実証体験したいとの狙いがあって、2017年という早い時期に出資参画したのではないかと推測されるからです(ただし、Cocoテラスたがわへの出資参画を発表した平成29年6月13日「新電力会社Coco テラスたがわ株式会社への出資参画につきまして」を見ても、上記推測の真否を確認できません。
ⅳ さらに、地域や市民生活に根差した面的広がりのある取組みを展開するという狙いからすると、できれば市民が組織するNPOなどの団体が出資し、社長職に就くことが考えられます。Cocoテラスたがわの場合、残念ながらそうした動きは見られないようです。
(小括) Coco テラスたがわが現実に行ってきた「電気の調達と小売り」はもちろんのこと、「発電設備の設置と管理運営」や「事業所や一般家庭への電気の供給販売」といった活動において、田川市の当時の建設経済部長が共同社長の職に就いて、官の公共性を保持する必要性と意味はほとんど認められません。むしろ、Cocoテラスたがわは無駄に人件費を支出しているかもしれず、第3セクターの失敗を繰り返すおそれが大きい社長就任であったことになります。
(※ 6 Coco テラスたがわの「今後のビジョン」に続きます)