ふるさと直方フォーラム

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イ 先見性・着想力・実行力が凄い みやまスマートエネルギー(みやまSE)には学ぶべき点が多い!  2023.10.23

   初めに「地域新電力事例集」(2021年3月。以下「事例集」としています) と次の①~④の文献を参照して検討します(すべてWEBでタイトル検索して閲覧できます)。

  ①加藤 伸一・日経BP総研クリーンテックラボ「福岡県みやま市、挑戦的な地域新電力に見る『理想と現実』(自治体と分散型エネルギー⑷ 公民連携最前線2019.03.08)

   ②みやま市環境経済部エネルギー政策課「みやま市のエネルギーの地産地消に向けた活動 ~エネルギーとしあわせの見えるまちづくり~」(発表年月不明、ただし2019年3月末時点の資料に基づき作成されている)。

   ③磯部達・みやまパワーHD(株)代表取締役「活力ある地方創生を目指した地域新電力の挑戦」(2020年2月19日)

   ④「自治体新電力の雄、みやまスマートエネルギーの混乱と再起への道のり 赤字決算やガバナンス問題に揺れた自治体新電力から見えたもの」(2021.06.21) 

 ⑤工場電気ドットコム「みやまスマートエネルギーで何が起きているのか」(2020年11月24日)

 ⅰ みやま市は人口約3万8300人で福岡県南部に位置しています。主な産業は農業です。みやまSEの事業内容は電力小売事業と生活サービス、設立は2015年2月、資本金2,000万円です。出資構成は、みやま市(55%)、みやまパワーHD(株) (40%)、(株)筑邦銀行(5%)です(ただし、現在は、みやま市がみやまパワーHDの保有していた株式を全株取得し、計95%を保有しているようです)。

 ⅱ みやま市が電力会社を設立したのは、「市内で生まれたエネルギーを市内で使うエネルギーの地産地消」が主な目的です (下図参照、③)。

みやま市が電力会社を設立した目的  ③ 
      

 事例集では、「全国初の自治体出資による電力事業会社」であり、「『日本初のエネルギー地産地消都市』を目指し、自治体新電力会社として、電力の収益を活用した地域課題解決を目的とした事業を展開」するとしています。設立が2015年2月でサービスの供給開始は2015年11月ですが、随分と早い時期に先駆的な取組みをスタートしていることに驚かされます。

 みやま市の電力事情は、それまでは九州電力から電力を購入し、みやま市内から年間約40億円~50億円が他の地域に流出している状況でした。これを、地元の再エネ発電所などで発電した電力を使う地域新電力で賄うとすると、約40億円~50億円が地元に残ることになると考えられています(①、下図参照。みやま市の「エネルギー、地産地消の流れ」については ⑷2023.8.23の図も参照)。

みやま市の「エネルギー、地産地消の流れ」 ①

 ⅳ みやまスマートエネルギー株式会社(以下、みやまSE)は地産地消を目標とするだけでなく、そこから得た利益でいろんな市民サービスを提供することを目的に掲げています。そうして従業員数は45名(派遣、パート含む)です。45名のうち20人強が電力事業に従事しているようです。いずれにしろ、人口約3万8300人の地域としては極めて大きな雇用を生んだと言えるようです。 

 みやまSEの業績は、設立当初の2015年度と2016年度は経常利益が赤字でしたが、2017年度(ないし翌年度)から黒字になり(④、下図参照)、2019年には累積赤字を解消したようです。

    みやまSEは、みやま市が当初55%出資していたいわゆる第三セクターです。第三セクターは、官の公共性と民の経済性両方のいいとこどりを狙って1980代後半~90年初頭にかけ多くが設立されましたが、現実の結果はほとんどが官の非経済性と民の非公共性に終わっています。

 そうした中でエネルギーの地産地消を掲げるだけでなく、黒字化できた経営手腕については素直に賞賛すべきと思います (ただし、2020年から21年にかけての冬の寒波で電力を調達する卸売市場の取引価格が高騰し、債務超過に陥ったようです。(産経ニュース「福岡・みやま市のみやまSEが再び債務超過」2021年8月2日、最新情報は未確認)。しかし、卸売市場における取引価格高騰の影響は民間出資100%の地域新電力も同じような苦境に陥っていることを考慮しなければいけません)。

みやまSEの業績  上の図は④から、下の図は①から

 ⅳ 少し詳しく経緯をたどります

 みやま市が、地域新電力の設立を主導するきっかけとなったのは、2014年に始めた家庭用エネルギー管理システム(HEMS)の実証事業で、市内の1万2000世帯中、約7分の1となる2000世帯にHEMSが導入されたことです。この実証が終わった後にも、HEMSを使った市民向けサービスを続けることを決め、それを実施する企業が必要になり、みやま市が過半を出資(55%)する地域新電力みやまSEを設立したようです。

 みやま市では、地域への太陽光発電の導入促進策として、2010年に市内の住宅用太陽光発電システムを設置する家庭に対する補助を始めています(1kwあたり3万円、最大12万円まで)。これにより市内の住宅における太陽光発電の普及率は補助開始前の8.9%から約15%になり、全国平均の5.6%を10ポイント近く上回っています。

 また、再生可能エネルギーの推進策として、2013年には約16年間塩漬けであった市有地を活用し5MWのメガソーラーを設置しています。そして、みやまSEの設立後、2016年4月から自治体新電力としては日本で初めて家庭向けに電力供給を開始しています。

 なお、2014年には国からバイオマス産業都市に選定されています。これは、佐賀市大分県佐伯市とともに九州で初めての認定だったようで、2018年12月にはバイオマス施設が本格稼働し、循環型社会のまちづくりに取り組んでいます(以上、②③参照)。

 以上の経緯から、みやま市には早くから高い環境意識があり、環境志向に強く裏付けされた施策を展開していることが窺えます。

 

ⅴ [特記したいこと]

  a みやま市は人口約3万8000人、農業が主な産業の、けして大きくはない自治体です。それなのに、地域新電力としてはかなり早い2015年2月にみやまSEを設立し、設立の当初から「エネルギーの地産地消」を最大のコンセプトにして事業を続けてきた先見性と行動力をリスペクトしたいと思います。

 実際、みやまSEの低圧の年間販売電力量は、2018年度実績ですと28MWでして、他の自治体新電力のほとんどが0から2MWhであるのと比べると断然大きいのです。

  b エネルギーの地産地消を実際に進める方策として、NTTスマイルエナジーと協定を結び、みやま市の31カ所の市有施設の屋根上に太陽光発電設備を導入したという・実現力にも驚嘆します (②、下図参照)。

三者所有モデル 地産地消型屋根貸し事業 with NTTスマイルエナジー

   具体的には、NTTスマイルエナジーと協定を結び、同社がみやま市の31カ所の市有施設屋根上に太陽光発電設備を新たに導入、新電力に売電しています。これは私たちが提案しているPPA方式による太陽光発電設備の設置と考え方の基本は同じと思います。

    地産地消の理念を示すだけでなく、それを実現に向け工夫し、行動に移していることを、PPA企業として登場しているNTTスマイルエナジーの名前とともに覚えておきたいと思います。 

  c 40%の出資者であるみやまパワーHD(社長がみやまSEと同一人物だった)は地域新電力6社から需給管理業務を受託していましたが、以下のeで述べる経緯があって、みやまSEがみやまパワーHDの保有する株式を全て取得したようです。

 そのため、みやまパワーHDで需給管理業務の実務を担当していた人物がみやまSEに移籍するなどしています。すると、需給管理についての経験は、みやまSEが今後地域に経営を集中していくときにも、VPP(仮想電力所)網を構築するための貴重な知的財産として引き継がれていくと思います。

  d 驚嘆し、賞賛するだけでもいいかと思いますが、地産地消について要望じみたことを述べます。

 地産地消のうち地産についてです。みやまSE社全体の電源構成に占める再エネ割合は「地域新電力事例集」(2021年3月)からは国の2021年度における再生可能エネルギーの割合である約20%を上回っているかどうか、明確に断定できません。

  どういうことかと言うと、みやまSE全体の電源構成は、原子力(9%)、FIT電気(23%)をどう評価するかで分かれてくるのです。そして、再生可能エネルギー(3%)、水力発電 (3%)以外は、LNG(29%)、石炭火力発電(20%)、石油火力発電(20%)となっています。

 ところで、2030年度の温室効果ガス46%削減に向け、国は再エネの電源構成を36-38%としています。上記の再生可能エネルギー(3%)と水力発電(3%)をさらに積極的に拡充して地産地消の地産を向上させる努力が求められると思います。

 地消については、供給契約数は当初目標の10000件に対し1219件(法人571件、個人648件、2020年2月末現在。)です。市内の法人は約1000社、市内の世帯数は約1万2000ですから、どちらも5割強が加入契約していることになります。

 5割強が加入契約済というのは、とても凄いことのように思えますが、地域の将来を左右する目標であり課題に関わることですから、住民や法人の間で問題意識と将来像を共有し、可能であれば8割9割の加入契約済を達成してほしいと思われます。

 そして、以下のeで述べる経緯があって、みやまSEは従来の経営方針を大きく見直し、地域間連携など全国への積極的な事業展開を中止して、みやま市を中心とした地域に集中することで市内の契約倍増などを進める方針へと舵を切ったようです。これにより地消が進むことを期待したいと思います(④に詳しい)。

  ※ みやまSEは、みやま市と同様の地域課題を抱えたエリアの地域新電力と地域間連携を進め、全国に積極的な事業展開をしてきたようです(東京都の外郭団体であり新電力事業も手がける東京都環境公社の需給管理支援を受託したり、東京都目黒区の公共施設に目黒区の連携都市である宮城県気仙沼市のFIT電気を供給したりしています。

  e 格別の先見性や実行力・実現力を有していたことの反面、みやまSEの元社長が、社長を務めていた「みやまパワーHD」など複数の会社との契約を、みやまSEの取締役会での承認を得ないまま交わしていたことは利益相反取引にあたる可能性があるとする市の調査委員会報告書が2020年2月にまとめられています。

 確かに、利益相反取引の不祥事は是非とも避けなければいけないことです。しかし、利益相反取引自体は当然に遵守すべき法令が守られなかっただけです。したがって、法令を確実に遵守する体制を整備すべきは当然ですが、地産地消を目ざしていた組織の活動までを悪者扱いするのは間違った態度と思います。

 外部に対する透明性や外部意見を取り込むなどのコンプライアンス対策を早急に施し、その後は、地産地消を実現して地域経済の循環を確立し、希望にあふれた明るい地域社会の基盤を構築するという、まだどこの地域新電力・自治体新電力も成し遂げてない夢の実現に向かって邁進してほしいと願うばかりです(同旨、④⑤)。    以上