ふるさと直方フォーラム

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『産業に活力を』で直方に元気を取り戻すことができるか!? その2 基本政策を実施する施策の立案③-大塚市長所信表明抱負を公共政策の定石から考える(10)ー2019.11.19&25

1 産業を活力あるものにして稼ぐ力を磨くことにより市民所得を向上させるという狙いは社会経済的見地から見たとき、根拠ある合理的な考えか

 (1) 所得の向上というと、私たち団塊の世代なら、岸信介の後を継いで首相になった池田勇人所得倍増計画を提唱したのを覚えているでしょう。当時の社会状況は1960年の安保騒動できわめて対立的でしたから、池田勇人の笑顔や穏和な表情は、政治的思想的なことなどまったく理解していない子ども心にもなんとなく安らぎを感じさせて好感を抱いたことを記憶しています。

 

さて、池田勇人10年の間に国民総生産を2倍以上に引き上げることによって国民所得を倍増させることが可能になると考えていたようです。そうすると、産業を活性化させることにより市民所得を向上させたいという大塚市長の考えは、若干大げさかもしれませんが、かっての池田勇人ばりの経済政策、社会政策ということになるかもしれません。

 

しかし、1960年代は日本が高度成長を成し遂げた時代でしたから所得倍増計画は実現して成功したと評価されているようですが、他方、今日では、安定成長はありえても「高度成長の夢よ再び」と考える人は皆無です。

 また仮に先端技術や最新の設備を導入して運よく生産性と付加価値の向上を図ることができたとしても、米中貿易摩擦やイギリスのEU離脱をめぐる混乱の影響で世界経済の減速傾向が強まり、日本でも輸出が落ち込み製造業を中心に地方経済もその影響を受けざるをえない現在の状況を考えますと、生産性の向上が必ずしも付加価値の増加と市民所得の向上につながらないことも大いに考えられることです。

 

そして、大塚市長は、所得の倍増でなく市民所得の向上とトーンを下げていますが、先端技術や最新の設備を導入して生産性の向上を図ることができたとしても、産業を活性化させて市民所得の向上につなげる社会基盤や経済基盤を見出すことは、今日なかなかに容易でないというのが客観的な社会状況だと思います。

 

(2) 見落とすことができないのは、一次産業であれ二次産業であれ、先端技術や最新設備、あるいはIT 先進技術などの導入の要否や時機と内容を判断する主体はあくまで民間だということです。

現在は明治のような殖産興業政策の時代ではありませんから、産業育成を担当する農水省経産省であれば若干別論かもしれませんが、経営(判断と活動)に対する行政の過剰な関与の弊害を反省して行政改革規制緩和の取組みを余儀なくされた後でもありますし、経営責任を負わない・負えない一自治体が原則、民間の経営判断に口出しすべきではありません。

 

あるいは、現在は機関委任事務の時代ではなく地方分権の時代であるから、自治体が地域の課題として民間の経営に関与する必要性があるとの見解もありえるかもしれません。

 しかしながら、現代の企業は、国内事情だけでなく世界レベルの状況も十分に把握して生産量を調整しています。また、さまざまな利害得失要因を冷静に判断したうえで、新しい工場を建設したり、内外の市場に進出し、また随時撤退するなどの経営判断を行っています。

 ですから、キツイ言い方で申し訳ありませんが、地方の自治体に厳しい経営判断を下している現代の企業を的確に誘導する能力はないと思います。せいぜい、地元の中小企業が取引先の大中企業から不当な取引条件を強いられているとき等、公正取引委員会その他の政府関係機関に適切な対応を要請するなどが限度かと思います。

 

逆に言いますと、直方市の企業誘致に応じて進出してくる企業が直方市を元気にすることにどれほどに貢献してくれるのか、実際に誘致費用に見合う成果をもたらしてくれているのか、直方市の今日の状況を見るといささか疑問です。

 壬生市長時代にも数千万円を投資して企業誘致していますが、すでに過去の経験に基づいて企業誘致の是非を判断できるだけの十分な事例の蓄積があるはずです。少なくとも30年ほどのスパンで実績を観察したうえでないと施策としての有効性を的確に判断することはできません。なるべく早い機会に、過去30年分ほどの企業誘致に関する十分な決算資料を作成し公表していただいたうえで企業誘致の是非を判断してほしいと思います。

 

そして以上で述べたことは、農業がブランド化、六次産業化により付加価値の向上を図ることにも妥当します。すなわち、ブランド化、六次産業化自体は必要な方向だと思いますが、その進路は、農家と農協が自身の問題として誇りと覚悟を持って選択すべきです。

 ちなみに、地域経済循環マップ・シナリオ事例集(10頁)では、「地域資源の6次産業化による投資額の増加」として、「地域資源の6次産業化を促進するために、農家、食料加工業者、研究機関等が地域外のファンドから資金調達をして、設備投資をする。」「投資された企業・団体が6次産業化に取り組み、付加価値額が増加する。」と述べていますが、行政が関与する事態を想定していません。

 

日本の各地で成功が伝えられている農業経営の実践例もあるように思いますが、それらは行政の助けに依存しての成功例ではなく、断固とした自立心と独立心で状況を打開してきたがゆえの成果だと思います。

 

以上、産業を活力あるものにして稼ぐ力を磨くことにより市民所得を向上させたいという大塚市長の思いと狙いは理解できますし、業界団体や商工会議所との適切な連携は必要でしょうが、あくまでもそれら団体が主体的に取り組むべきであるし、最終的には個別の企業が独自に決断して成し遂げるべき課題であると申し上げました。 

 

〔補遺〕 企業誘致について、政治的・思想的レベルではいろんな見解を見かけることがありますが、政策論レベルでの実務的な意見に出くわすことはあまりありません。そうしたなかで、たまたまですが、昨日、域内経済循環と企業誘致などに言及する以下に紹介する文献に出会いました。以下の引用は事実認識だけですが、最後まで(73頁)まで読めば、もっと積極的な見解が示されていると期待できます。政策業務に携わる議員さんや市の職員の方には是非、その全部をお読みいただき、研究してほしいと思います。

 

これまで、地方では地域活性化のための企業誘致等を進めてきましたが、誘致に成功しても域内の企業との取引が少なく地域の経済が思ったほど活性化しなかったり、誘致した企業が撤退してしまうといった事例もあります。また、大規模商業施設を誘致したものの、中心市街地の商店街が郊外の大型ショッピングセンター等との競争に勝てず、商業施設の雇用が増える一方で中心市街地の衰退・空洞化が進む等、新たな問題が発生することにより地域経済の活性化が当初の狙い通りに進んでいない地域もあると考えられます (日本政策投資銀行DBJ&価値総合研究所「地域経済循環分析解説書 2 地域経済の再生に向けて 2-1 望ましい地域経済循環構造の構築 (9頁))