大塚市長の所信表明や抱負が公表されていますので、公共政策を進めるときの定石を踏まえ、検討を加えコメントしています。大塚市長が所信表明や抱負で明らかにしている未来につながる元気な直方を創りたいという最終目標に強く共鳴していますので、コメントする基本姿勢は、目標(Goal)が定まった以後の政策過程(Policy Process)について、より建設的で目標を実現できる政策形成や政策を実施する施策(Program)を提案することです。初めは、目標に形を付けるというか外枠を示すなどして、目標を実現する基本政策と方針を検討します。
ここでは2点、指摘します。
一つは、「直方市に元気を取り戻したい」という目標と、それを政策として一段前に進めるはずの『まちを豊かに』『人に夢を』『産業に活力を』の三つが、目標とそれを一段前に進める基本政策の関係にあるものとして、あまり素直に頭に入ってこないのです。つまり、目標に始まり、基本政策と施策の決定、事務・事業の実施、そして政策評価と続く政策過程の全体の中で、上記三つの基本政策は、最初に設定した目標の実現に向かうスターターとして適切か、正直、疑問を感じます。
大塚市長の意図や狙いを正しく理解できていなければ申し訳ないのですが、『まちを豊かに』『人に夢を』『産業に活力を』それぞれに対する賛否はさておき、おそらくは、「まちを豊かに』や『人に夢を』は目標と同じレベルか、もしかしたらより上位に位置づけられる可能性があるように思います。
逆に『産業に活力を』は政策より下位の施策段階に位置づけ、目標と『産業に活力を』との間にもう一段、たとえば「市民の所得をアップさせる」など、二つをつなぐ政策レベルの提案を置く必要があるかもしれません。
もちろん、基本政策の後に施策や事務・事業と続きますので、最終的な結論はその政策過程の全体が、目的と趣旨が明確で首長一貫しているかどうかを見て判断しなければいけません。
もう一つは、政策を決定するときの基本方針についてです。『投資のないところに成長はない』との思いに立って、投資をいかに呼び込むか、どこに投資をしていくのか、民間投資を誘発するにはどうすればよいかを念頭に施策の展開を考えていく。」と述べています。
『投資のないところに成長はない』という考え方自体が間違っているとは思いませんが、「投資」と言うと「利益を見込んでお金を注ぎ込む」という印象が強いので、少し違和感を覚えます。現状認識等を踏まえて目標を設定し、目標実現のために、人、モノ、カネのリソースを大胆に投入するということはあると思いますが、もちろんそれは明治政府による殖産興業政策や官営八幡製鉄所の創業(1901年)のように、行政が民間の経済活動をリードするということではありません。
また、グローバル化しハイテク化した経済競争を生き抜いている民間活動を、地方小都市の行政が適切にリードしたりウインウインの関係になるよう誘導する能力を備えることができるとも思えません。せいぜい、民間活動の邪魔をしないようにするか、一方の利益が他方の損失になるゼロサムの関係に陥ることなく企業が活動しやすい環境を整えることしかできないと思います。
もちろん、今回の市長選挙で大塚市長は、「直方市に元気を取り戻したい」を目標に掲げ、その方策として「投資のないところに成長はない」を信念に、『まちを豊かに』『人に夢を』『産業に活力を』を訴えて当選されたのでしょうから、これを実施する資格があることに疑いはありません。
しかし、ことは「直方を元気にできるか」に関わっています。それで無理を承知でお願いしたいのですが、現実の政策運営では思い込みや先入観を排し、その時々に存在するさまざまな政策要素を過不足なく客観的に把握し、自然で、かつ合理的な政策プロセスの流れになっているか、そして着実に設定した目標の実現に向かって進行しているか、柔軟な姿勢で日々を振り返りながら前に進んでいただきたいと思います。(続く)