4⃣ 新しい動き
⑼ ローカルエナジーの出資者である米子市は、境港市、ローカルエナジー、山陰合同銀行と共に、再エネの地産地消と自治体が連携するCO2排出管理によるゼロカーボンシティの早期実現を共同で提案し、環境省の第1回「脱炭素先行地域」(2022年4月)に選定されています。
その事業計画は、耕作放棄地など地域の再エネ・ポテンシャルを最大限活用し、太陽光発電の施設(合計約1万4000kW)を整備、米子市の水道局施設のほか、608の地域の公共施設と民間施設2施設に対して電力を供給するなどというものです。
選定に伴なう米子市への「地域脱炭素移行・再エネ推進交付金(脱炭素先行地域づくり事業)」(令和4年5月11日)の内示額は「米子市 1,206,400千円」で、選定された全26市の中で断然1位です。10億円以上の内示を受けているのは川崎市と米子市のみです。このことだけを見ても米子市の脱炭素先行に対する環境省の期待の高さが分かります。計画期間は2022年度~2030年度ですが、計画を実行してグリーンな再エネ電力を産み出すことができれば、上記した課題の多くを解決できそうです。
⑽ 松江市に本店を置く山陰合同銀行は2022年7月、銀行法の改正を受けた銀行業高度化等会社として、全国の地銀では初めて100%出資の「ごうぎんエナジー㈱」を設立しています。
同行の公式発表では、地域における再エネ供給量不足や脱炭素経営への転換の遅れなどの課題認識を背景に、自らのリスクで脱炭素を牽引する「地域に根差した事業体」が不可欠と判断しています。
⑾ 山陰合同銀行関係者は、子会社ごうぎんエナジーを設立して再生可能エネルギーの発電事業に参入するに至った理由に関連して次のように説明しています。
「山陰は再エネの発電量が少なく、売電しているのは県外の事業者が多い。売電価格も下がり、地元事業者による再エネ投資は停滞している。」(山陰合同銀行山崎徹頭取、中国新聞デジタル2022/10/21)。
「国内でFIT制度が導入され、山陰地域においても県外資本のメガソーラー発電業者が参入し、再エネ発電事業が活性化してきました。ただし、参入企業の多くは県外資本であるため、地域で発電された電気が県内で還流しておらず、経済的にも地域内で還元されていない現状があったのです。地域で発電されたエネルギーは、地域で使ってこそ、地域循環のエコシステムが構築できるのではないかと考えて、電力事業に参入しました」(「山陰合同銀行「再エネ電気事業」は成功する? ノウハウゼロでも“本気”で新規参入する理由」山陰合同銀行 経営企画部 サステナビリティ推進室調査役 門脇亮介解説、ビジネス+IT/FinTech Journal 2023/02/03 https://www.sbbit.jp/article/fj/106138)
⑿ そして、脱炭素を牽引する方策として、再エネの主力電源化に積極的に取組むと共に、銀行の取引先などに電気を供給するとしています。このとき、「自治体との連携」と「取引先との連携」の2つの連携を重視しています※。 なお、太陽光など再生可能エネルギーを利用した発電を2023年度に開始、「30年度までに68億円から100億円を投資する」計画を発表しています(日本経済新聞2022年8月17日)。
※ 「自治体との連携」は、自治体が持っている公共施設に太陽光発電の設備を設置し、そこで発電される再生可能エネルギーをその公共施設で利用するというものです。「取引先との連携」は銀行の取引先などの工場の屋根、または遊休地で太陽光発電の設備を設置し、「コーポレートPPA」と呼ばれる電気の販売形態を使って取引先に電気を供給、取引先は再エネを利用することによって、環境価値の高い事業経営が可能になるというものです。
国からしばしばかなり高く評価されてきたローカルエナジーの活動実績でしたが、再生可能エネルギーの発電ですとか、一般般家庭と民間の事業所に対する電力供給という面では必ずしも満足できない状況だったと思います。
米子市が主導する脱炭素先行地域づくり事業の成否はこれからですが、ローカルエナジーが抱えていた再エネ発電を積極的に展開するという課題にごうぎんエナジーが最前線で取組み、脱炭素先行地域づくりをけん引してエネルギーの地産地消をさらに完成形にすることが大いに期待されます。 (5⃣に続く)