3⃣ 気づいた点・気がかりなこと
地産地消により経済の地域内循環を実現することに着目して気になる点を述べます。
地産に関しては、a. 地域新電力としてのローカルエナジーが管理する再エネ電源が自己所有でない、b. 電源構成に占める再エネの割合が期待するほど大きくない、c. 再エネ発電量が絶対的に小さいのではないか、および、d.一般家庭等向けの電力供給が少ない、の4つについての危惧です。
a. 地域新電力としてのローカルエナジーが管理する再エネ電源が自己所有でない
「地域新電力事例集」では、「地域の再生可能エネルギー発電所との契約状況」として、「鳥取県西部を中心に太陽光発電所が19箇所、廃棄物バイオマス発電(米子市クリーンセンター)、地熱発電、中小水力発電1箇所」と記載されています。しかしこれは、ローカルエナジーが電気を調達している再エネ発電所を自己所有していないことを意味しているようです。
この点に関連して、次のような指摘があります。
山陰合同銀行が電力事業に参入する背景に、山陰地方でSDGs(持続可能な開発目標)の取り組みが遅れているとの危機感がある。資源エネルギー庁によると、2022年1月時点での太陽光や風力などいわゆる新エネルギーを活用した発電所数は、島根県は24カ所で全都道府県中37位、鳥取県が28カ所で35位。管理・運営を担うのは県外資本も多い(日本経済新聞2022年5月12日)。
『ローカルエナジー』は自身で発電所を所有することにはこだわらず、初期投資を抑えながら地域の電源開発事業者との連携を深めていることで、コンサルティングや視察受け入れ、地域の学校での講演会といった人材育成事業にも幅広く取り組むことができる経営的な余裕が生まれています(「官民出資の自治体新電力で再生可能エネルギーを地産地消、環境省主催グッドライフアワードHP https://www.env.go.jp/policy/kihon_keikaku/goodlifeaward/report201806-localenergy.html)。
発電所を自己所有せずに初期投資を抑え、地域の電源開発事業者との連携を深めることで幅広い取り組みを展開する経営的な余裕を生むというのは、極めて高度な経営判断であり、経営の素人が安易に干渉できるものではないのかもしれません。
それでも、ローカルエナジーが調達する電源が地域外資本の所有するものであるときは、ローカルエナジーが買電のために支払った代金は最終的に地域外に流出する可能性が高くなりそうです。そうすると、小規模再エネ電源を中心に地産地消を実現し、持続可能な地域社会の基盤を確立するという当初の目的が損なわれてしまうのではと思われます。
b. 再エネ発電量が絶対的に小さい?
上記したとおり、ローカルエナジー自身は発電所を所有しておらず、地域の電源開発事業者から再生可能エネルギーの電気を調達し、約1万件の顧客に電気を届けているようです(参照、環境省が主催する2018年第6回グッドライフアワード環境大臣賞 自治体部門の受賞者紹介。以下、「受賞者紹介」)。
そして、ローカルエナジーの電力小売・卸売事業の供給量は17MW(うち、低圧2MW、2019年12月時点)です。他方、前に紹介した人口12.7万人の生駒市のいこま市民パワーの電力小売事業の供給量は27,106MWh(2018年度実績)ですから、人口およそ15万人の米子市における電力小売事業の供給量としては、他になんらかの制約要因があるかもしれませんが極めて少ないように思われるのです。
地産地消の地消の問題として取り上げる方がいいのかもしれませんが、地消における再エネの絶対量が小さいことは、地産地消と持続可能な社会の創造と密接に関連する小規模分散発電の充実に照らしても大きな課題だと思います。
c. 電源構成に占める再エネの割合が期待するほど大きくない
ⅰ ローカルエナジーにおける「地産電源の割合は32.3% 日本卸電力取引所から調達は18.0%」です(当社の電源構成(2018年度実績)「再生可能エネルギーを基本にした地域エネルギーマネジメント」ローカルエナジー 常務取締役 森真樹(2018年9月11日))。
したがって、電源構成に占める再エネの割合は、当然ですがこの地産電源32.3%の範囲内にとどまります(「地域新電力事例集」で公表されている電源構成は、太陽光発電(10.6%)、水力発電 (0.7%)、バイオマス発電(12.7%)、地熱発電(0.1%)、廃棄物発電5.9%、相対取引(39.4%)、卸売電力取引所(30.6%)です)。
このうち、バイオマス発電と廃棄物発電を再エネ電源と評価できるかについては議論があると思いますが、廃棄物発電は含めずバイオマス発電のみ再エネ電源とすると、26.4%になります(廃棄物発電も再エネに含めると再エネ電源の割合は計30.0%)。国の2021年度における再生可能エネルギーの割合は約20%ですから6.4%程度上回っていることになります。
ⅱ 国の再エネ電源割合を6~10%程度上回っているのですから、まずはほめるべきかもしれません。しかし、化石燃料発電の相対取引(39.4%)と卸売電力取引所(30.6%)の計70%の大きさがどうしても気になります。ローカルエナジーはDGsを柱とする「地域を変える10の目標」を中期経営目標として掲げています。また、エネルギーの地産地消を達成して地方創生を実現するとしているのですから、可能な限り再エネ発電の絶対量と割合をもっともっと大きくしてほしいと思われます。
d. 一般家庭等向けの電力供給が少ない
ローカルエナジーはケーブルテレビ契約のネットワークを活用するなどして地域住民への理解を広げるとしていたのですが、受賞以降最近まで一般家庭への電力供給はあまり行われていないようです(新電力PPSポータルサイトの「自治体出資の新電力一覧表」では「一般家庭:予定なし」(2018年12月21日時点)とされている。ただし、グッドライフアワードHPの受賞者紹介では「公共施設、企業、一般家庭およそ1万件に電力を供給」とある)。
ローカルエナジーの場合、地元自治体である米子市と隣接する境港市が出資者として参加していますから、公共施設などに太陽光発電を設置するハードルは低いと思われます。また、地域を代表するケーブルテレビ、地域の住民になじみがあるに違いない皆生温泉観光(株)や米子瓦斯も出資者として名を連ねていることから推測しますと、もっと住民に浸透できるとの読みがあったはずです。そうした可能性を大いに活かして小規模分散電源を市民生活の場に展開し、地産地消の地消も早期に充実してほしいと思われます。