ふるさと直方フォーラム

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補遺 「電池サプライチェーン協議会」設立どころではない、 EUは戦略的な取組みではるかに先行している! 2021.4.23

  先日の早朝、布団の中でラジオを聞いていて「欧州全体でEVシフト、車載用バッテリー電池生産に向け活発な投資」のビジネスレポートをチラリと耳にしました。未確認ですが、NHK国際部・松崎浩子「欧州の電気自動車バッテリー戦略」2021年4月8日(木)かと思います。 

 EUがEVへの誘導で先駆的な規制政策を展開していることは周知のところですし、本フォーラムでも取り上げていますが、欧州全体でEV向けバッテリーの開発・生産に取り組んでいることは見落としていました。「欧州全体でEV向けバッテリーの開発・生産に取り組んでいる」、これが今日の結論です。

 そこで、急いで「EV向けバッテリーの開発・生産 欧州」などのワードでネット検索しましたら、たくさんの情報にアクセスできました。以下は、不勉強だった私の学習記録みたいなものです。ご奇特にもお読みくださる方がおられましたら、欧州全体でEV向けバッテリーに取り組んでいることについて、感想などありましたら是非お聞かせ下さい。

 

1 初めに、「欧州全体でEV電池生産へ アジアに対抗、7500億円投資」という見出しの日経新聞2019年5月3日の記事を紹介します。欧州連合EU)とドイツ、フランスが、電気自動車(EV)向け電池の開発に欧州の官民で最大60億ユーロ(約7500億円)の投資を発表、日韓中のメーカーが牛耳る電池市場で、欧州全体の技術を集結して巻き返しを図る、と報じています。

 記事は以下のように続けています。

独仏政府などが約12億ユーロの補助金を出し、関連企業が約40億ユーロを投資する。企業には仏自動車大手グループPSAや仏トタル傘下の産業用電池大手サフトなどが含まれる。イタリア、ベルギーなども参加に興味を示している。

計画によると、フランスに設置する試験工場で、2020年にも生産を始める。22~23年には独仏にそれぞれ1カ所ずつ新たに工場を設け、電解質として液体を使う従来型電池の改良型を作る。さらに25~26年ごろ、次世代の「全固体電池」を生産する目標だ。

 

2 また、一月ほど前になりますが、「フォルクスワーゲン、欧州のEVバッテリ生産体制を強化--2030年までに年間240GWh量産」(佐藤信CNET Japan2021年03月16日 )という記事があります。次のように紹介しています。

VolkswagenVW)は、電気自動車(EV)シフトを推進させるため、EV用バッテリ工場の新設や、急速充電ステーションの設置といった計画を発表した。欧州だけで6つのバッテリ工場を作り、2030年までに合計で年間240GWh相当のバッテリ生産体制を整える。

 バッテリ生産能力を増やし、VWグループのEVに対するバッテリの安定供給などを目指している。その結果、バッテリコストを最大で半減できると見込んでおり、最終的に、バッテリシステムの1kWh当たり平均コストが100ユーロ(約1万3000円)を大きく下回る。さらに、材料のリサイクル性が高まり、最大95%の再利用が可能になる。

 

3 調べる前までは、コロナに苦しめられている社会経済状況を克服し、持続可能な循環社会を目指しているEUグリーンリカバリー政策の一環だろう位に思っていました。

ところが、いろいろ読んでみると、それ以上にグローバルな経済競争を勝ち切ろうとするEUのきわめて戦略的な取り組みであることが分かってきました。それを気づかせてくれる記事をいくつか紹介します。

 

 ⑴ 欧州におけるEVシフトとバッテリー電池生産全般について、包括的な情報提供をしている駐日欧州連合代表部が公表している記事があります(「EVシフトを加速させ経済成長につなげるEUの取り組み」EU MAG Vol. 80 ( 2020年秋号、2020年11月18日)。

 EUの取り組みが、グローバルな経済競争を勝ち切ろうとする、きわめて戦略的な取り組みとして展開されていることがよく分かります。長文ですが、以下に一部を引用して紹介します。    

 官民一体となって推進する関連インフラ整備

EVの普及に欠かせないのが急速充電器などのインフラの整備だ。2020年7月、欧州委員会は「欧州グリーンディール」の一環として、分散したエネルギー供給網を見直し、エネルギー効率性の向上を実現する政策をまとめた「エネルギーシステム統合戦略」を発表。EVを普及させるためには、2025年までにEU域内の充電スタンドを100万カ所以上に拡充する必要性があり、そのための資金調達の呼びかけを早期に行うこととした。

また、充電設備を中心とするインフラを国境を越えて整備し、鉄道・船舶・トラックなどを組み合わせた効率的なモーダルシフトを実現していくには、充電時間をさらに短縮した超高速充電器や、急速充電可能で航続距離の長い固体電池といった新たなイノベーションが欠かせない。だが、その開発には膨大な投資が必要であり、一企業の開発費で補えるものではない。EUは「コネクティング・ヨーロッパ・ファシリティ(CEF)」や「欧州構造投資基金」(European Structural and Investment Funds:ESIF)などの基金を通して、超高速充電設備の開発や電動バスの購入などに対する補助金を提供したほか、研究・イノベーション資金助成プログラム「ホライズン2020」などによる研究開発支援も行っている。

また、EV用バッテリーの生産は中国などのアジアや米国のメーカーが独占しており、EUの競争力を強化するにはEV用バッテリーの内製化が求められている。欧州委員会は2017年にEV向けバッテリーの開発・生産に関わる欧州の関連企業を結集する「バッテリー同盟」(Battery Alliance)を立ち上げた。2018年には「European on the Move」の一環として、「欧州におけるバッテリーの開発および製造のための戦略的な行動計画」を発表。域内での原材料調達と同時に、域外での責任ある原料採掘や、使用済みバッテリーの回収・再生、製造時の再生可能エネルギーの利用なども盛り込まれている。

2020年9月には、需要の大幅増が見込まれるリチウムなどのレアメタル希少金属)やレアアース(希土類)を中心とした重要資源の供給元の多角化や、域外依存度の低下を急ぐための行動計画を発表。重要資源の戦略的な確保を目指す「欧州原材料アライアンス」(European Raw Materials Alliance:ERMA)を発足させた。今後、資源の探査、採掘、製品化からリサイクルまでを効率的に行う仕組みの構築を目指していくが、すでに100を超える産業界のパートナーや約40の産業団体、欧州地質学者連盟、労働組合、環境NGOなどが参加を表明している。

 

⑵ そこで、欧州委員会(European Commission)のHPをvisitしますと、確かに2017年11月17日付けで欧州委員会が第2のモビリティパッケージ(the Second Mobility Package)を発表」がアップされています。

 このパッケージには3つの目的があるとされています。その一つは「高度なバッテリー技術など、世界的な需要が急増すると予想され、ヨーロッパだけで2,500億ユーロの市場となる新しい分野に投資する」ことです。残りの2つは、デジタル化と脱炭素化、エネルギープロバイダーからのヨーロッパの独立です。 

 

欧州委員会のHPに、もう一つ注目する発表(2017年8月11日)がありました。それは、クリーンな車両においてEUが世界的なリーダーシップを強化するために欧州委員会が行動すると明言し、それを実行に移すための施策としてバッテリーに関する方針を明記しています。

 バッテリーに関する取組み(battery initiative)と呼ばれているものでして、明日の自動車その他のモビリティ手段とそれらを構成する部材をEU域内で発明し、生産することを目的としています。その意味で、このbattery initiativeはEUの統合された産業政策にとっての戦略的な重要性を持つと位置づけられています。

 

 そして、2018年10月15日、欧州委員会は結成(2017年10月11日)から約1年を迎えた「欧州バッテリー同盟(EBA)」の進捗状況・最新動向についての報告を発表しています。その中でバッテリー・イニシアチブは、自動車や明日の他のモビリティソリューションとその構成部材を発明し、EUで生産されるように、EUの統合された産業政策への戦略的な重要性を持っていると述べています。

 

⑶ 欧州委員会が2018年5月に発表している「欧州におけるバッテリーの開発および製造のための戦略的な行動計画」(Strategic Action Plan for Batteries)について、

この計画は、欧州がグローバル市場で革新的、持続可能かつ競争力のあるバッテリー製造バリューチェーンを構築することを目的としていると評する見方が示されています(ザボロフスキ真幸、2018年5月24日 ロンドン発。金属鉱物資源についての国内外の情報やニュースを提供している独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構JOGMEC)金属資源の情報サイト。 

ジェトロ(日本貿易振興機構)は、「競争力」「高品質」「安全性」といった商品供給に関わる要素に加えて、「持続可能性」「リサイクル可能性」「エコシステム」など原料調達や廃棄処理、商品・技術開発、人材育成など幅広い要素も重視する方針を打ち出していることが特徴だとする見方を示しています(前田篤穂「欧州委、結成1年迎えた欧州バッテリー同盟で報告」2018年10月17日、ジェトロ日本貿易振興機構HP)。 

⑷ 専門の学術研究論文もあります。

    家本博一「欧州バッテリー同盟EBAの特徴・性格と今後の課題 : 参加企業動向調査の結果を踏まえて」(2021-03-12、同志社商学72巻6号)です。表題のとおり、欧州バッテリー同盟の特徴,性格について詳細に検討しています。

  そして、EBAの活動と事業を手放しで楽観視するだけではなく、「電池出発原料と電池材料の安定的な入手,熟練・専門技能を有する専門家や熟練労働力の安定的な確保,リサイクル/リユースのコスト,効率性といった供給サイドの問題をどのように解決に導くか」(94頁)などの課題を指摘しています。

   また、わが国で進行している複数の 「次世代電池研究・開発プログラム」と早急に協力・連携する必要がある、ともしています。

   それでも、家本博一氏がバッテリーについて以下のような基本的理解を示している点は、“環境エナジータウン直方”を提案している私たちフォーラムの立場と同じです。

   バッテリー性能の進化は,基盤技術の進化として将来的には VPP 構想の社会実 装を通じて「スマートシティ」構想,あるいは「スマートソサエティ」構想にとって不可欠な生活・社会基盤の一つとなるため,産業構造を大きく変換させることが考えられ る。・・・EBA は,将来的には,EU 域内で,さらには地球規模でバッテリー産業の発展を通じて「循環型経済」に相応しいビジネスモデルの規準化を目指している・・・

 

⑸ (株)富士経済は欧州の車載リチウムイオン電池市場の環境を分析し、欧州バッテリー同盟の取り組みや参画プレイヤーの動向について、

「欧州バッテリー同盟(European Battery Alliance)および欧州バッテリー連合(European Battery Union)の参画企業動向調査」(2019年10月)のレポートを発表しています。目次を眺めるだけで極めて詳細なデータの収集と分析がなされていることが窺がえますが、本文はCD-ROM版が税込みで330,000円するので、残念ながら入手できず本文は読んでいません。

 

4 以上で注目すべきは、EUにおける官民一体の取り組みです。しかも、一国内だけでなく、欧州の主要国がスクラムを組んでいます。官主導とか官民一体というと、日本の専売特許みたいに思っていたこともありましたが、問題の重大さに鑑みてでしょうか、自由主義が第一のヨーロッパで官民一体の取り組みが本腰を入れて行われていることに驚きます。

 また、バッテリーに関する取組みが、単に技術開発の問題というだけでなく、EUの産業政策にとっての戦略的な意味合いを持つものと位置づけられていることです。私たちの日本も、バッテリーに関する技術開発として捉えて民間の研究に期待するだけでなく、産業政策や環境政策として戦略的に展開する見地から、政府としても取り組なければならないことを学ぶべきだと思います。

 

 EVのバッテリーについては、アメリカのバイデン政権も、半導体などとともに国内での生産の促進を含め、サプライチェーンを見直していく方針を掲げています

 今日の冒頭で言及したNHKの国際部記者松崎浩子氏も、安全性、価格競争力、環境対応、次世代技術の開発。それらすべてを各メーカーだけでこなしていくことは容易なことではないが、ヨーロッパやアメリカの戦略の背後に、強い危機感があることは間違いない。日本も産官学が危機感をもって存在感を高めていけるかが問われることになりそうだと述べています(「地球に優しい電池を  EVの“要”めぐる潮流(後編)」NHK HP、2021年4月16日)。        以上