ふるさと直方フォーラム

《目標スローガン》 “人とモノとカネが往来し、循環する直方と筑豊を創ろう‼”  ふるさと直方と筑豊の再生に取組む主体をふるさと直方を愛するみんなで創ろう❣

考察⑵ リチウムイオン電池の世界市場規模(ニーズ)は拡大、競争激化により日系企業の世界シェアは低下傾向 2020.8.27 環境エナジータウン直方創造のための市民目線からの政策選択メモ ⑰

 

㈡ リチウムイオン電池の世界市場規模(ニーズ)は拡大しているが、国際的な競争激化により日系企業の世界シェアは低下傾向

リチウムイオン電池の開発と商品化には吉野さんたち日本の研究者と旭化成などの企業が大きな貢献をしたことを知りました。そのうえ、世界市場の規模(以下、ニーズ)は拡大していることを確認できましたから、あとは「行け行けドンドン」あるのみかと思われます。

しかし、現実は必ずしもそうなっていないようです。その理由としては、国際的に競争が激化し、日系企業の世界シェアは低下傾向にあることが第一にあげられます。これを以下で確認しておきます。

 

ⅰ ノーベル化学賞の受賞が決まった直後の記者会見で、吉野さんが日本のリチウムイオン電池産業の現状に憂慮を示したとして次のように紹介する記事があります。「リチウムイオン電池、日本は中韓に苦戦 「川下」商売下手、弱み象徴」というタイトルです (サンケイビズ2019.10.16。以下、サンケイビズ日本は中韓に苦戦、という。

https://www.sankeibiz.jp/business/news/191016/bsc1910160500007-n1.htm)

「川上ビジネスは優位性があり大したものだが、川下は非常に下手くそ」。基礎研究で苦労し、開発研究で苦労し、製品化した後も売れなくて苦労する。製品を世に出した後の苦しみが「精神的、肉体的にもきつい」と体験的に語る。

 

ⅱ 分かりやすいたとえ話ですね。ところで、経済アナリストは経済状況を冷静かつ客観的に観察していると期待されますが、吉野さんの上記評価と矛盾しない見方を示している記事があるので以下に紹介します(引用文中の下線は比山)。

岡三オンライン証券株式会社【業界図鑑】化学業界 ~ 日本の命運を握るリチウムイオン電池材料メーカー(2019年05月29日)、増井麻里子「業界図鑑 ~業界・セクターごとのトレンドを掴む~」、以下、岡三証券、 日本の命運を握るリチウムイオン電池材料メーカー、という。

液晶パネル、DRAM、DVDプレーヤー、携帯電話などは、かつて日本が世界をリードしていた。しかし、円高、技術流出、人材流出、外国の官民一体の大規模投資により、中国、韓国、台湾メーカーが台頭。日本はシェアを大きく落としている。リチウムイオン電池も例外ではないが、2割のシェアは維持していると見られる。今後数年に亘り、EV向け大型電池の需要があるため市場は拡大する見込みだ。日本メーカーが覇権争いで生き残ることが期待されている。 

(2. 中国、韓国メーカーの台頭)

ソニーに続き、当時の松下電池工業、三洋電機 (現パナソニック子会社)、日本電池 (現ジーエス・ユアサ コーポレーション)、日立マクセル二次電池市場に参入 (ソニーの電池事業は2017年に村田製作所が買収)。

2000年の日本の世界シェアは97%だったが、2008年には50%に低下した。現在世界首位である韓国のLG化学は、デトロイトに巨大工場を建設し、米国自動車メーカーに供給している。2017年に生産量で世界首位となった中国のCATLは、欧州の自動車メーカーだけでなく、ホンダや日産にも供給している。トヨタや米国のテスラを主な顧客とするパナソニックは世界第2位。

現在、産官学が一体となってEV用途での実用化を目指し、全固体リチウムイオン電池の研究開発に取り組んでいる。国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 (NEDO) が、2018~2022年度のプロジェクトとして総額100億円を見込んでいる。

 

ⅲ サンケイビズの上記記事以外にも、吉野彰さんのノーベル化学賞受賞が決まった頃の一般紙は、概ね、次のa~cを伝えています(先に紹介した、朝日新聞「競争激化で撤退企業も」、毎日新聞リチウムイオン電池の市場、競争激化 低価格武器に中国や韓国勢が台頭(2019年10月10日)」と題する記事などです。)。すなわち、

 a. リチウムイオン電池は日本のメーカーが世界市場をけん引してきた、

 b. ノートパソコンやスマートフォンから始まった用途と世界市場は拡大を続けている、しかし

 c. 近年は汎用品化や低価格化が進んで中国や韓国勢が台頭し競争が激しくなっている、です。

 

なお、少し古くなりますが、公的機関の文書を二つ、紹介しておきます。

一つは、2013(平成25)年の日本政策投資銀行の「バッテリーベイの現状と今後」(以下、政策投資銀行「バッテリーベイの現状と今後」という)と題するレポートです。

このレポートによりますと、2008年当時、関西は「バッテリーベイ」と呼ばれ、世界のリチウムイオン電池工場となる可能性が示唆されていたということです。何も知らないものですから「へぇーすごいな、そんな歴史があったのか❢」と感心してしまいます。以下のとおりです。

リチウムイオン電池は、日本が世界に先駆けて実用化に成功した製品であり、 日本のメーカーが相応の世界シェアを有していた(2008年当時44.1%)。なかでも関連企業が集積し、大型投資が積極的に行われた関西は、「バッテリーベイ」と呼ばれ世界のリチウムイオン電池工場となる可能性も示唆されていた。しかし、新興国勢の躍進により、携帯電話・パソコン等に使用される小型リチウムイオン電池における関西のシェアは、2008年に33.1%あったものの2012年には10.6%と、急速に下落したと推計される(当行試算)。

 

ⅳ もう一つ、2011(平成23)年に政府が公表している白書(以下、「2011ものづくり白書」)を参照します。リチウムイオン電池が世界市場で発売開始されたのは1991年のようですが、この白書の中では、2004年と2008年の世界シェア推移を比較して、日系企業の世界シェアがすでに低下傾向にあるとして、下図を示しています。下図左端の「最終製品」をご確認ください(下図右側の「部素材」については後ほど、参照します)。 

f:id:FurusatoDosouForum2015:20200827161623p:plain

リチウムイオン電池 2004年と2008年の世界シェア推移比較

 

以上のとおり、リチウムイオン電池の世界市場規模(ニーズ)は拡大しているのですが、リチウムイオン電池に関する日系企業の世界シェアは大きく低下して推移しています。その大きな理由として、円高、技術流出、人材流出、外国の官民一体の大規模投資、汎用品化や国際的な価格競争の激化などがあげられています。したがって、安易なコミットはできない世界であることは認識しておかなければいけませんが、同時に、克服できる要素とできない要素について、スターターとしての誇りと知性を動員してしっかり見極めなければならないと思います。(つづく)