4 個々の環境エナジーについて市民目線で政策選択に役立てたいメモ
(1) リチウムイオン電池
イ 車載用リチウム電池
ロ 家庭などに固定して利用する固定式リチウムイオン電池
ハ 大規模蓄電システム
㈠ 国内最大規模109万個のリチウムイオン電池による蓄電池施設
㈡ 関西電力の堺太陽光発電所(2011年9月営業運転開始) (前々回)
㈢ 電力会社以外による“太陽光発電所+大容量蓄電池”の組み合わせ (前回)
㈣ 太陽光発電など再生可能エネルギーの接続申込みを回答保留する理由 (今回)
㈣ 太陽光発電など再生可能エネルギーの接続申込みを回答保留する理由
ところで、素通りしてきましたが、太陽光や風力を利用して発電した電気を電力会社に買い取ってもらうために送電線に接続しようとするさいに発生する問題として、先ほどから何度も、出力変動対策であるとか系統連系の条件として、あるいは接続申込みに対する回答保留や充放電システムの制御といった表現が出てきています。どういうことでしょうか。
私が持っていた認識は次のようなものでした。
「太陽光パネルによる発電が大きく増えているが、発電した電気を電力会社にすべて買い取ってもらうことの是非と可否について、いろいろ議論があるようだ。技術的な理由だけによるのか、それとも政策ないし独占の弊害が表れているのだろうか」程度のものでして、それ以上に、是非と可否を正確に理解したり、対立する見解それぞれの根拠について真剣に考えることはしていませんでした。
電気工学分野の知識にプラスして電力事業の独占政策に関する理解が求められる難しい問題だということで、ちゃんと考えていなかったのです。しかし、リチウムイオン蓄電池の必要性が認められるようになった事情に関わることでもあります。リチウムイオン蓄電池の将来を考えるためにも、ここは一度正しく理解しておきたいと思います。
初めに、本題に入る前に、下の表ですが、資源エネルギー庁がまとめている資料「電力各社の再生可能エネルギー発電設備の系統への受入れ状況」をご覧ください。
内容としては、以下の3つの○印から始まる情報が示されていますが、再生可能エネルギーとして発電された電気を系統に受入れるかどうかの問題が、平成26年10月時点では、北海道電力と沖縄電力だけではなく、東北、四国、九州でも2ケタ、あるいは3ケタの数の案件として発生していることを確認しておきたいと思います。
○北海道電力、沖縄電力においては、平成25年から再生可能エネルギー発電設備の受入れ困難な状況があること。
○平成26年、一部の電力各社(東北、四国、九州)においても、再生可能エネルギー発電設備の導入量と申込量の合計が春・秋(低負荷期)の電力需要を超過。(北海道、沖縄でも、更に接続が困難な状況に至っている。)
○このため、上記の電力各社は、一定規模以上の再エネ発電設備の接続申込みへの回答を保留すること等を公表。
これを見ますと、少なくとも春・秋(低負荷期)においては、東京圏や関西圏は含まれていませんが、再生可能エネルギーの発電合計量が社会全体の需要を超過しているようです。日本では再生可能エネルギーによる発電はまだまだ萌芽期レベルかと思い込んでいたので意外な感じです。
そして、春・秋の低負荷期、東北、四国、九州の電力各社管内において、再生可能エネルギーの発電合計量が社会全体の需要を超過しているということは、賢明な官民が未来を志向し、知恵を出し合って正しい努力をすれば、夏・冬(高負荷期)においても、社会全体の需要を賄うことのできる再生可能エネルギーを調達できる可能性があることを示しているのではないでしょうか。言うまでもないことですが、このことは化石燃料依存から脱却して脱炭素社会を実現し、地球温暖化を防止して持続可能な社会の形成に大いに近づくことになるのではと思えてくるのです。
次に本題に入ります。太陽光発電事業者は、電力会社に買い取ってもらわなければいけませんが、どうして電力会社は素直に(喜んで)※太陽光発電による電気を買い取らず、接続申込みに対する回答を保留したり、買い取るための条件として蓄電池併設などを求めるのでしょうか。
理由は、太陽光パネルや風力で発電した再生可能エネルギーの電力を電力会社の送電線を使って送電するためには、地域における発電量と使用量を常にほぼ同じに保つことが求められるからのようです。しかし、太陽光発電や風力発電が天候に左右され、発電量がお天気次第というのは避けがたいことです。
そのため、(a)日中の発電量が使用量をオーバーするなどしてこのバランスが崩れると、電気の周波数が乱れたり電圧の変動が生じ、時には大規模な停電になるおそれがあるようです。それに、(b) 太陽光発電や風力発電は時として数十秒から数分で突然、出力が大きく変動することがあります。こうした変動する電力が送配電網に大規模に流入すると、やはり電力の品質低下を生じ、周波数変動や電圧変動が大きくなるおそれがあると言われています。
ところで、太陽光発電の出力変動は、短い周期と長い周期の2つに分けて言うのが正確かもしれません。再エネが短時間のうちに出力変動を起こし、これにより系統の周波数が影響を受けるのは「短周期問題」です。そして、特に夏場などに好天気が続いて再エネの出力が増え、地域における電力供給がその需要を超えてしまうのは「長周期問題」です。
ほかに、短い周期と長い周期の2つと重なる場合があるかもしれませんが、北海道や沖縄など離島における電力系統の規模が小さいために接続容量が限られることを「熱容量問題」※として区分することもあるようです。
※ ある文献では、北海道電力管内は電力系統の規模が約400万kW(キロワット)程度と、他地域より圧倒的に小さい。これは東日本エリアの約11分の1、西日本エリアの約15分の1の規模と紹介されている。陰山遼将・スマートジャパン「北海道で広がる“太陽光×蓄電池”、再エネ普及の活路となるか」2017年04月11日https://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/1704/11/news031_2.html)。
また、上記の3種類に分ける説明については、金子 憲治「動き出す再エネ併用型「大型蓄電池市場」新市場をリードするTMEICの蓄電池戦略(前半)」2016.02.03参照。
https://xtech.nikkei.com/dm/atcl/feature/15/415282/012900004/?P=5
そうすると、発電量と使用量を常に同じに保つことが求められ、もし両者間のバランスを保てないときは上記したような不都合が生じることが不可避であるなら、考えられる対応策としては、太陽光パネルによる発電あるいは系統への接続を止めるか、そうでなければ何か実効的な対策を講じなければいけません。
従来から行われてきた対策は、電力会社が所有して管理する火力発電設備を随時操作して発電量と使用量とのバランスを保持してきたということですが、特に東北大震災以降、再生エネルギーの発電量が増え、火力発電による出力調整では間に合わなくなってきたようです。
また、電力会社側では、買い取りを行う際、系統の需給バランスが保てないなど一定の条件下では系統接続をストップする出力制御ルールを設けているようです。そして、電力を利用する消費者側では、周波数や電圧に敏感な機器を設置している場合、電気を安定化させる装置を自主的に設けることもあるようです。
太陽光パネルによる発電を止めるなどは元も子もないことでできません。かくして、現実的な解決策として登場したのが、たとえば、太陽光発電の中でも、出力が1メガワット(1MW=1,000kW)を超えるメガソーラーと呼ばれる大規模発電システムについて、需要量をオーバーする再生エネルギーを、再生エネルギー発電者側に設置するリチウムイオン蓄電池を使った蓄電システムに一時的に蓄電することでした。
メガソーラーの出力変動等に起因する電力の需給バランス確保の必要性については、以上のとおりです。なお、上記はいろんな人の説明を私なりに理解しものですが、前回紹介した「サムスンと組んで国内を制覇か、太陽光発電所+大容量蓄電池」で、畑陽一郎氏が図解して説明しています。
以下に畑氏の図解と説明を引用して紹介しておきます。ご覧になっていただくと、出力変動対策であるとか充放電システムの制御が求められるというのは具体的にどのような状況であるのか、正しく理解できると思います。
若干、補足しますと、徳之島の場合、太陽光発電システムが現状規模であれば、内燃力機(合計10台中3台)の調整で島内需要との差を吸収できる(図2左)。ところが太陽光発電の規模が約7MWに達すると、昼間の約6時間、内燃機力の出力を最低限に絞っても供給が過剰になる(図2右で赤く塗った部分)。これまで徳之島には蓄電設備がなかったため、それだと「島内需要を供給が上回る」右図の赤い時間帯、太陽光発電所の出力を約6時間停止して抑制しなければ調整できない、ということです。(了)