イ 直方市で特に外貨を稼いでいるのは製造業という前提は正しいか
ⅰ 大塚市長が言う「外貨を稼ぐ」に関して、地域経済は、下記に引用していますように、地域外を主な市場とする域外市場産業と地域内を主な市場とする域内市場産業に分けて説明することが一般的であるようです。この説明によりますと、製造業は農業や観光業と同様の域外市場産業として、日用品小売業や対個人サービス業などの域内市場産業とは対照的に、本来的に域外を市場とする性質を有しているとされています。したがいまして、製造業が「外貨を稼ぐ」というのは、一般的には正しいと思われます。
(以下の段落は、たしか地域経済循環に関する県の報告文書からの引用です。後日、確認して明記します)
地域経済は、➀地域外を主な市場とする「域外市場産業(製造業、農業、観光)」と➁地域内を主な市場とする「域内市場産業(日用品小売業、対個人サービス業)」に分けて考えることができる。 お金の流れに注目すると、例えば、➀製造業の会社が地域外に製品を販売し、売上を得る、➁会社が従業員に給料を支払う、➂地域住民が地元のスーパーで買い物をする、➃スーパーが従業員に給料を支払う、その後➂➃を繰り返して、域内需要が拡大する、という地域経済の模式図(構造)が浮かび上がる。域外から資金を流入させる域外市場産業は、地域経済の心臓部とも言え、域外から資金を稼いでくる産業の集積を促進し、競争力を強化することが重要。
ⅱ では、直方市においても製造業は外貨を稼いでいるのでしょうか。リーサスではそれを直接示す情報は見当たらないようですので、初めに、直方市全体の付加価値産出額を産業別に見た下の図①と、直方市全体の産業において製造業(企業単位・大分類)がどのような位置にあるかを示す下の図②を見てみます。
そうしますと、2013年の直方市全体の付加価値額に占める製造業を含む第2次産業の付加価値額の割合は27.7%(472÷(8+472+1224)。単位百万円)で4分の1強です。
そして、図②(企業単位・大分類)で見ますように、卸売業・小売業、医療・福祉、建設業、サービス業、宿泊業・飲食サービス業、不動産業・物品賃貸業などを含めた13の業種のなかでは製造業の付加価値額が一番多く、割合で示すと33.3%(25,494÷76,652)です。
製造業を含む第2次産業の付加価値額の割合は27.7%だったのに、13の業種のなかで製造業の割合が33.3%というのは一見おかしいのですが、後者は2016年の統計であり、3年の時間が経過するうちに変化があったのかもしれません。
いずれにしろ、以上から言えることは、直方市全体の付加価値産出額において製造業が大きな位置を占めていることは事実ですが(2016年は33.3%)、圧倒的とか決定的というjまでの比重を有してはいません。
次に、付加価値産出額(企業単位・中分類)に関する下の図③を見ます。すると、大分類で一口に製造業といっても、企業単位では20に分かれる中分類では、額の大きい順に、生産用機械器具製造業4位、食料品製造業7位、金属製品製造業8位、輸送用機械器具製造業,9位、はん用機械器具製造業10位、 プラスチック製品製造業(別掲を除く)12位、鉄鋼業13位、 電子部品・デバイス・電子回路製造業15位となっています。
これから言えることは、付加価値産出額において製造業は大きな位置を占めていますが(2016年は33.3%)、製造業をさらに8つに区分した企業単位・中分類の業種で言うと、一番割合の大きい生産用機械器具製造業にしても、5.8%(4,463÷76,652)の比重です。
製造業というと、50年、60年前からになりますが、私など、小学生の頃から同級生の家庭が複数、鉄工所を営んでいてその看板をよく見かけていましたから直方市内では鉄鋼業を思い浮かべます。それでですが、大塚市長のいう製造業が鉄鋼業をさしているなら、鉄鋼業の付加価値額の割合は3.2%(2,436÷76,652)と一段と小さくなります。ですから、鉄鋼業の強化に少々成功したとしても、市全体の稼ぐ力に及ぼす影響は、残念ながら限定的です。
そういうわけですから、大塚市長のいう製造業がどの業種をさしているのか、特定して明示していただかなければなりません。あるいは、上記した製造業のすべてを強化するという意味かもしれませんが、きっとそれぞれの業種ごとに有効な強化策は異なってくるでしょうから、ITやAIを含め専門技術化が著しいそれぞれの業界について、公益を追求する自治体が公共性を確保しつつ適切な強化策を提案できる体制を用意するなど、無理な相談だと思います。
ⅲ ところで、地域の産業の移輸出額から移輸入額を差し引いて得られる「移出入収支額」を分析すると、地域の外からお金(所得)を稼いでいる産業を把握できます。そこで、移輸出入収支額に関する下のリーサスの図④を見てみます(不鮮明で申し訳ないのですが、図で濃い青は「移輸出入収支額」、薄い青は「生産額の構成割合」を示しています。また、左から縦に、1次産業、2次産業、3次産業と書いてあります。)。
そうしますと、第2次産業の移輸出入収支額は0を割っていてマイナス25億円でして、地域の外からお金(所得)を稼いではいません(生産額の構成割合は41.4%です)。ただ、第3次産業の移輸出入収支額はマイナス406億円ですから(生産額の構成割合は58.1%です)、第2次産業、第3次産業とも地域の外からお金(所得)を稼いではいません。言えることは、第2次産業は、第3次産業ほど、地域の外にお金(所得)を流出していないというだけです。
もちろん上記は、産業別に見た「移出入収支額」ですから製造業に限定して見る場合、事情は若干異なるかもしれません。産業連関表を正確に読めば製造業に限定した移出入収支額を読み取れるかもしれませんが、おそらく大きな傾向は変わらないように思われます。(この点の正確な情報に基づくご意見等ありましたら、是非ご指摘ください)
以上、ⅰからⅲの検討から、直方市で特に外貨を稼いでいる、あるいは外貨を稼ぐ可能性があるのは製造業という前提は、ハッキリ間違っているとまでは言いませんが、正しいと断言できるデータはないように思われます。(続く)