ふるさと直方フォーラム

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市長に対する監査請求に思う(上) 2016.7.26

 遅ればせながら、ごく最近、壬生市長が公用車やタクシーを私的に利用したとして、市民団体代表が公費返還を求めて住民監査請求をしたとの毎日新聞記事を見た(毎日新聞2016年6月29日〔筑豊版〕)。この記事によると、 請求は「壬生市長が自己の兼職先の法律事務所までの移動に公用車を使うのは著しく違法性が高い」と指摘。運転した職員の給与の一部や公用車経費の返還を要求。また、私的利用したタクシー代にも公費を支出しているとして代金返還を求めているという。

 

 舛添前都知事の例をミニ復習するような話であり、聞いていてまったく楽しい話ではないが、市民団体代表が住民監査請求をしたこと自体は、地方分権と地方創生という時代の流れに遅れ、保守的閉鎖的な感もする直方という街で、若干、皮肉ではあるが、やっと“人並みの”市民の動きが始まったかという思いがした。

 

   では、この住民監査請求の争点はなにか。舛添前都知事の場合は、都庁から湯河原にある別荘まで片道約100キロ離れていたため、ガソリン代や高速道路の費用が約400万円にも上ることでも問題になったが、直方市役所から兼職先の法律事務所までの距離は短いから、そうした公用車利用に伴う銭かねの多寡は大した問題ではないだろう。ズバリ争点は,兼職先の法律事務所まで公用車を使用して行き来することをどう評価するか、公私混同につながる要素があるかということである。

 

    この点、壬生市長は以前、詐欺未遂容疑事件の私選弁護人に自治体の首長が就任することを極めて異例として報じる記事の中で、兼務について、「市長職務に支障がない範囲で、困っている人のために仕事をするだけ。何も問題ない」と発言している(読売新聞2015年12月10日など)。「何も問題ない」というのは、市長は特別職で勤務時間の規定がなく、地方自治法直方市条例でも弁護士業務との兼業禁止規定がないことを念頭に置いているようである。確かに、兼職の禁止について規定する地方自治法141条が明記しているのは、衆議院議員又は参議院議員および地方議会の議員、常勤の職員、短時間勤務職員である。また、同法142条が規定する兼業の禁止は、地方公共団体と請負等の取引関係にある会社の役員などである。

   

では、市長が刑事弁護人の地位に就くことは、兼職・兼業できないものとして明記されていないから「何も問題ない」ということになるか。

 

    前にも述べたが(2016-03-25 ミス・ユニバースの「カメラはちょっと苦手」発言による失格と市長の刑事事件弁護引き受け)、「地方自治法などで禁止が明記されていないから、許される」などというのは、刑事犯罪の成立に関する罪刑法定主義類似の考えである。刑法の世界では、行為の時点で、その行為を犯罪とし、それに対する刑罰の種類と刑の重さが規定されていなければならず、行為後の立法で処罰できないとして行動の自由を保障するのが大原則である。

 

   しかし、地方自治法は刑事法ではなく地方自治という公共性を実現しようとする法体系の中心に位置する法規であるから、禁止が明記されていなければ許されるといった罪刑法定主義類似の考えは当てはまらない。そうではなく、地方自治という公共性を実現しようとする法の趣旨に即して個別の条文を解釈しなければならない。

 

    そうすると、141条の立法趣旨は、なによりも長としての職務に専念するためであるが、ほかに、国政との関係で地方の独自性を確保するため、あるいは、長としての公正な職務執行を確保するためと説明されるのが一般である。そして142条については、長の職務執行の公正・適正を確保するのが立法趣旨とする最高裁判例がある。

 

 なお、市長については職務専念義務が明記されていないが、一般職の職員についてすら「職員は、・・・その勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職責遂行のために用い、当該地方公共団体がなすべき責を有する職務にのみ従事しなければならない。」(地方公務員法35条)とされている。であるなら、「普通地方公共団体の事務を、自らの判断と責任において、誠実に管理し及び執行する義務を負う」(地方自治法138条の2)市長については、職員のように「勤務時間」とは関係なく、「誠実に」職務に専念することが期待されて至極当然である。 

 

    そこで、長の職務専念義務や地方の独自性確保、および長の職務執行の公正・適正の確保は、地方自治という公共性を実現するという地方自治法の法目的に照らして、極力、それらを尊重するように解釈しなければならない。すなわち、両条に明記されているものについて兼職・兼業が禁止されることは言うまでもないが、明記されていなくても、長の職務専念義務や地方の独自性確保、および長の職務執行の公正・適正の確保といった立法趣旨が極力、損なわれないように解釈しなければならない。

 

    ちなみに、市長が衆参の議員に立候補すると、届出の日に市長職を辞したものとみなされたり(公選法90条)、兼業の禁止に該当すると自動失職する(自治法143条)という両条の規定は、職務専念義務等に著しく抵触するゆえに特に明記して一律に禁止されているにすぎないと解される。そこまでいかなくても、職務専念義務等に違反すると否定的に評価される事態はありえると考えるべきであり、そうした事態に対しては、個別の状況に応じて不当ないし違法とされることになる。

 

 今回の場合についていうと、弁護士登録自体は禁止されておらず認められていいのであろうが、所属弁護士会の会員として最低限必要な事務処理を超えて、特定の刑事事件において委任を受けて弁護士業務を行うことは、委任を受けた弁護士としての善管注意義務の重さもあるため、一般的には明らかに市長としての職務専念義務に反すると思われる。例外として許されるのは、その弁護士業務を行うことが同時に市長としての職務を果たしていると評価できる場合に限られる。

 

    要するに、地方自治法は公共性を実現するための法システムである。そして、今回の住民監査請求は、市長としての職務専念義務に反するという趣旨の訴えと理解すべきであろう。ここまで説明しても、なお、「地方自治法などで禁止が明記されていないから、許される」などと主張する人がいれば、その人は、個人的私益の保護と調整を図る私法か、刑事法・刑事訴訟法分野で罪刑法定主義の貫徹を図る仕事に従事すべきであり、公共性を一番に考える世界にはあまりに不適格である。

 

   以上、住民監査請求がなされたとの記事に接して壬生市長の刑事弁護引き受けについて、かなり厳しい法解釈論を率直に示したが、続けて次回、1年を経過した壬生市政に対する賛否両論を続けて述べ、客観的で公正公平な評価をすることにしたい。